クセノクラテス

クセノクラテス：プラトン哲学の継承者にして独自性を追求した哲学者

クセノクラテス（紀元前396年 - 紀元前314年頃）は、古代ギリシアを代表する哲学者の一人です。カルケドン生まれのアガテノルの子として誕生し、プラトンの薫陶を受け、アカデメイアにおいて3代目の学頭として25年間その地位を堅持しました。プラトンと共にシケリアへの旅に出たという逸話も残されています。

プラトンからはアリストテレスと比較され、「アリストテレスには拍車が必要だが、クセノクラテスには手綱が必要だ」と言われるほど、性格に違いがあったと伝えられています。アリストテレスが奔放な天才肌であったのに対し、クセノクラテスは、生来の慎重さと真面目さから、威厳に満ちた人格者としてアテナイ市民からの厚い信頼を得ていました。その信頼の厚さは、証言の際に宣誓を必要としないほどであったと言われています。晩年は、青銅の鍋につまづいて頭を打ったことが死因であったと伝えられています。

哲学思想：プラトンとピタゴラスの融合

クセノクラテスの哲学は、プラトンの晩年の思想を継承しつつ、ピタゴラス派の思想を積極的に取り入れた点が特徴的です。彼はイデアと数を同一視し、世界の根源的な原理を自己運動する数として捉えていました。この思想は、プラトンのイデア論を、ピタゴラス派の数秘主義的な宇宙観と融合させた独特の体系を構築しようとした彼の試みを如実に示しています。

彼は、物事を三つの要素に分類する三分法を好んで用いました。例えば、学問を論理学、自然学、倫理学の三科に分類し、宇宙を天下、天、地上の三界に区分し、認識を感覚、ドクサ（意見）、知の三段階に分類しました。こうした三分法は、彼の思考体系における秩序と調和への強い関心を示すものです。

倫理観においては、知と徳、そして徳と幸福の間に密接な関係があると主張しました。すなわち、真の幸福は、知恵に基づいた徳によってのみ達成されると考えたのです。この思想は、プラトンの理想国家論に通じるものであり、同時に、個人の内的完成への道を示唆するものでもありました。

多彩な著作：失われた知の遺産

ディオゲネス・ラエルティオスによると、クセノクラテスは膨大な著作を残したと伝えられています。『自然について』6巻、『知恵について』6巻、『富について』1巻など、合計22万4239行にも及ぶ著作を著したと記されています。これらの著作の大部分は残念ながら現存しておらず、断片的な情報しか残っていませんが、彼の哲学体系の広さと深さをうかがい知ることができます。現存する断片や、後世の伝承を通して、彼の思想は現代においてもなお、古代ギリシア哲学研究において重要な位置を占めています。

クセノクラテスの遺産：現代への影響

クセノクラテスの哲学は、プラトン哲学の直接的な継承でありながらも、ピタゴラス主義の影響を取り込み、独自性を確立した点で高く評価されています。彼の三分法や、知・徳・幸福の一致といった倫理思想は、後世の哲学者たちに多大な影響を与えました。彼の膨大な著作は失われたものの、断片や二次資料を通じて、その思想は現代においても研究され、古代ギリシア哲学理解に貢献しています。彼の生涯と業績は、古代ギリシアの知の探求の歴史において重要な一頁を飾るものです。

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