クマリ

クマリ：ネパールの生きた女神

クマリ（Kumari、Kumari Devi）は、ネパールに住む生きた女神であり、「少女」または「処女」を意味するサンスクリット語に由来します。密教女神ヴァジラ・デーヴィー、ヒンドゥー教の女神ドゥルガーが宿り、ネパール王国の守護神である女神タレージュやアルナプルナの生まれ変わりとされています。満月生まれの仏教徒の少女が選ばれ、初潮を迎えるまでクマリとしての役割を果たします。まれに初潮が来ず、50歳を過ぎてもクマリを務めるケースも存在します。

ロイヤル・クマリとローカル・クマリ

首都カトマンドゥのクマリの館に住むロイヤル・クマリは、かつて国王もひれ伏したほどの存在で、国の運命を占う予言者でもあります。一般的にクマリという場合、このロイヤル・クマリを指すことが多いです。一方、ネパール国内各地の村や町にも多数のクマリが存在し、これらはローカル・クマリと呼ばれます。

近年では、2001年に当時4歳でPreeti Shakyaが、2008年に当時3歳でMatina Shakyaがロイヤル・クマリに選ばれました。2017年には、Trishna Shakyaが3歳で新たなロイヤル・クマリに選ばれています。

クマリの選ばれ方

クマリは、初潮を迎える前の幼い少女の中から、数多くの厳しい条件をクリアした者のみが選ばれます。そのプロセスは、チベット[[仏教]]の活仏であるダライ・ラマやカルマパの選定方法と類似しています。クマリの人数ははっきりとはわかっていませんが、ネパールの主要な地域でそれぞれ選ばれており、全体で約10人ほどではないかと推測されています（2024年現在）。

クマリの家柄は非常に重要であり、ネワール族の仏教徒で、僧侶または金細工師カーストであるサキャ（Shakya、釈迦の意）の生まれでなければなりません。さらに、32もの条件があり、その一部には以下のようなものが含まれます。

健康であること
全ての歯が欠けていないこと
菩提樹のような身体つきであること
子牛のような睫毛を持っていること
獅子のような胸をしていること
鹿のような脚を持っていること
アヒルのように柔らかく透き通った声であること
黒い髪と目を持っていること

また、身体的な条件として、怪我の跡や不自由な箇所がないことも求められます。さらに、動物の頭部が並べられた暗い部屋に閉じ込められ、恐怖に耐える試練も課されます。国や国王との占星術的な相性も考慮され、これらの厳しい条件を全て満たした少女のみが、クマリとなる資格を得るのです。

クマリの役割と力

クマリは絶大な力を持つと信じられており、幸運をもたらす存在として多くの人々の信仰を集めています。日常的には、人々の病気の治療や、願望成就のための祈願を行います。クマリを讃えるインドラ・ジャートラー祭では、山車に乗ってカトマンドゥの街を巡り、人々に繁栄と成功の力を与えます。予言者としての役割も担い、役人や政府関係者の元を訪れて供物を受け取り、様々な予言を行います。

クマリの行動は、以下のような意味を持つとされています。

わめいたり大声で笑ったりする：深刻な病気や死の前兆
泣いたり目をこすったりする：差し迫った死の予兆
身震いをする：投獄の暗示
手を叩く：国王に対する恐れの表れ
供物をつまむ：財務損失の警告
静かな状態を保つ：依頼者に安心をもたらす

クマリの館での生活

ロイヤル・クマリは、首都カトマンドゥのダルバール広場にあるクマリの館（Kumari Bahal）で、侍従たちに囲まれて生活します。特別な儀式以外で外出することはなく、クマリの館の中で日々を過ごします。学校に通うことができないため、勉強は館の中で行い、友人と遊ぶこともあります。観光客は拝観料を支払うことで、中庭や窓から顔を出すクマリを一目見ることができます。

クマリの退任とその後

数年間から10年前後、クマリとしての役割を果たした後、退任の時を迎えます。退任のきっかけとなるのは、初潮や乳歯の生え替わりといった出血であることが多く、これはクマリとしての神聖さや霊力を失ったと判断されるためです。新任のクマリを迎えて退位の儀式を終えた後、クマリだった少女は実家に帰り、普通の少女としての生活を始めることが許されます。退任したクマリには、毎月7,500ネパール・ルピーの恩給が支払われます。

かつては、「元クマリの女性は幸せになれない」とか「元クマリの少女と結婚した男性は早死にする」といった迷信が信じられていましたが、1991年までロイヤル・クマリを務めたラシュミラ・シャキャは、自伝の中でそのような神秘性を否定しています。

クマリを巡る問題

社会から隔絶されたクマリの状況は、人権擁護団体から幼児虐待や軟禁状態であると非難されています。2006年には、ネパールの最高裁判所が、クマリの伝統が人権侵害にあたるかどうかを政府に調査するよう命じました。2008年、最高裁はクマリの人権に関する判決を下し、クマリにも教育、行動、食事の自由などが認められるべきであるとしました。

ネパールの王制は2008年に終わり、連邦共和制国家へと移行しましたが、クマリの伝統は現在も存続しています。クマリの世話役は、クマリは人々の信仰を集めているからこそ伝統が続いているとしつつ、時代に合わせて変化していくことは当然であると述べています。

クマリ信仰は、ネパールの文化と宗教において重要な位置を占めており、その神秘性と社会的な側面は、今後も注目され続けるでしょう。

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