クリストファー・タナード

クリストファー・タナード（1910年-1979年）は、カナダ生まれの英国人で、造園家、作庭家、ランドスケープアーキテクト、さらには考古学者としても活躍した多才な人物です。特にイギリスにおける近代ランドスケープデザインの草分け的存在として知られ、また第二次世界大戦後は国際記念物遺跡会議（ICOMOS）の会員として、歴史遺産保存の分野でも国際的に重要な役割を果たしました。ハーバード大学やイエール大学で教鞭を執り、その思想は多くの後進のランドスケープデザイナーに影響を与えました。

生涯

1910年にカナダのブリティッシュコロンビア州ビクトリアで生まれました。父方の家系は英国リンカンシャー出身です。イギリスに渡り、1930年にヴィズリー王立園芸協会付属大学課程を修了し、ディプロマを取得。その後、ウエストミンスター技術研究所で建築施工を学びました。1932年から1935年まで、アーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けたパーシー・S・ケインの事務所で経験を積みました。

1935年にはヨーロッパを巡り、そこで前衛的な芸術や建築に強い関心を持つようになりました。ベルギーではジャン・カニール・クラスらと共同でマニフェストを発表するなど、当時のモダニズム運動と積極的に交流しました。いとこである芸術家ジョン・タナードを通じて、イギリスの建築家グループ、特に近代建築研究会（MARS）に関係し、住宅供給や都市問題といった社会的な課題にも深く関心を寄せました。

1936年、ロンドンでランドスケープ・アーキテクチャーの独立事務所を開設。1930年代後半にかけて、いくつかの邸宅庭園設計を手がけました。この時期の代表的な作品としては、サセックス州にあるアイヴァン・チャマイエフ邸のベントレーウッドの庭園や、建築家レイモンド・マクグラスが設計した円形のアールデコ建築、セント・アンズ・コートの庭園改修などがあります。彼はまた、この時期に雑誌『Architectural Review』に庭園に関する一連の記事を執筆しており、これらが後に彼の主著となる『近代ランドスケープの庭』としてまとめられました。

1939年、ヴァルター・グロピウスの招きに応じてアメリカ合衆国に移り、ハーバード大学デザイン大学院（GSD）の教授に就任しました。1938年から1943年には、マルティン・ヴァグナーらと共同でスタジオを運営し、敷地計画を担当。都市計画から個別の住宅環境に至るまで、幅広いスケールの計画に関する講義を行いました。ガレット・エクボ、ダン・カイリー、ジェームズ・C・ローズといった同時代の主要なデザイナーや、ローレンス・ハルプリン、フィリップ・ジョンソンといった自身の教え子とも協働しました。

ハーバード在籍中も、マサチューセッツ州で近代住宅のための庭園をいくつか設計しました。カール・コックとの共同によるベルモントでの初期近代的な住宅開発や、ジーン・ホームズ・パーキンス邸の広大な庭園などが含まれます。

1943年、イギリス・カナダ空軍に徴兵され、戦闘外の事故で片目を失明するという経験をしました。除隊後、特別研究生としてアメリカに戻り、1945年にはイエール大学建築・都市計画学部へ移籍。都市計画史の研究と教育に専念し、都市計画部長も務めました。都市計画に関する著作も多く発表し、特にボリス・プシュカレフとの共著『Man Made America: Chaos or Control?』（1963年）は全米図書賞を受賞するなど高く評価されました。

1969年、大学内の問題に関連して職位が変更された後、1970年からはコネチカット州ニューヘブンで歴史遺産保全活動に深く関わるようになり、地域建造物研究会の設立に尽力しました。

デザイン哲学

タナードは、イギリスに戻った時期に活躍していたガートルード・ジーキルらの影響も受けつつ、彼らが依拠した当時の折衷主義的な庭園デザイン、特に「ロマンチックな平凡さ」と彼がみなしたものに対し批判的な立場をとりました。代わりに、モダニズムの考え方をランドスケープデザインに取り入れることを提唱し、簡潔で機能的なデザインを追求しました。

彼のアプローチは、装飾や感傷的な要素を避け、機能的な要求からデザインが生まれるべきだと考えました。例えば、ベントレーウッドの庭園では、周囲の森を単に間引いて水仙や常緑樹を植えるなど、非常に抑制された手法を用いています。これは、庭園を単なる装飾や懐古的な空間としてではなく、家と周囲の自然環境を結びつけ、利用者の活動を促す「機能的な庭」として捉える彼の考えを反映しています。

タナードは、形体の規則性や対称性といった伝統的な束縛から自由であることを求め、バランス感覚に基づいたデザイン手法を奨励しました。美と機能と社会性の統合を追求するヨーロッパのモダニストたちに共鳴し、建築形態や現代アート、特に非対称性を取り入れた日本庭園からもデザインのヒントを得ました。彼は、ランドスケープデザインは単なる庭師の仕事ではなく、芸術性と幅広い視点を持つべき専門分野であると考え、機能主義、日本庭園、現代芸術を近代造園の三つの典拠として挙げました。

彼はまた、個別の庭園から広大な地域、都市、さらには国土に至るまで、ランドスケープを統一的に検討し計画する必要性を説きました。

『近代ランドスケープの庭』とその影響

『近代ランドスケープの庭』（Garden in Modern Landscape）は、1937年から1938年にかけて『Architectural Review』に掲載された一連の記事をもとに、1938年に出版されました。この本は、当時のランドスケープデザインに対する既成概念に強く挑戦するものでした。ジェフリー・ジェリコーは本書を、従来の様式を暴露し、自然と対称性や庭園の写真への閉じ込めといった広く受け入れられていた慣習に疑問を投げかけるものだと評しました。

本書は特にアメリカの若手デザイナーや学生に大きな影響を与え、ハーバード大学デザイン大学院で学んでいたガレット・エクボ、ダン・カイリー、ジェームズ・ローズらは、『近代ランドスケープの庭』から強い刺激を受け、その後の作品に大きな影響を受けています。ローレンス・ハルプリンも本書を「将来実績のための啓示本」として挙げ、タナードのもとで学びたいと考えハーバードに進学したと述べています。

タナードは晩年、ランドスケープデザインの実務からは離れ、都市計画や歴史遺産保存に重点を移しましたが、彼の著書『近代ランドスケープの庭』、特に第二次世界大戦後の再版に加筆された都市や地域レベルの計画に関する記述は、宅地開発や都市計画に関心を持つ建築家など、幅広い分野に影響を与えました。

主な作品

ベントレーウッド庭園（イギリス・サセックス、ホラント）
セント・アンズ・ヒル（イギリス・チェルシー、レイモンド・マクグラスによる円形建築）
クレアモント風景式庭園保存案
オランダ式菜園案（レイチェスチャー近郊・ガルビー）
オール・ヨーロッパ・ハウス計画プロジェクト（MARSプロジェクト）

主な著作

『近代ランドスケープの庭』 Garden in Modern Landscape (1938年)
The City Of Man (1953年)
『アメリカのスカイライン』 (1955年)
『国土と都市の造形』 Man Made America: Chaos or Control? (ボリス・プシュカレフと共著, 1963年)
『現代アメリカの都市』 (1968年)
* 『1978年の世界観』 (1978年)

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