タンタロス

タンタロス：神々の恩恵と永遠の苦しみ

タンタロスは、ギリシア神話に登場するリューディア王であり、神々と親しい関係を持つ特別な存在でした。彼の出自には諸説あり、ゼウスとプルートーの子とする説や、トモーロス山の神の子とする説が存在します。彼はエウリュアナッサとの間にペロプスをもうけましたが、その妻についても、河神の娘であるなど複数の説があります。

神々の寵愛と裏切り

タンタロスは、人間でありながら神々の宴席に招かれ、ネクタルやアムブロシアといった神々の食物を口にすることを許されていました。その結果、彼は不死の体を得ており、オリュンポス山の饗宴にも席を与えられていました。しかし、この特権的な地位は、彼の傲慢さによって破られることになります。

タンタロスは、神々を自らの領土シピュロスに招いた際、神々を試そうと息子ペロプスを殺害し、その肉を料理として饗宴で提供するという、恐ろしい行いに出ました。神々は料理の正体に気づき、誰も口をつけませんでしたが、デーメーテールだけは、娘ペルセポネーの誘拐で心神喪失状態にあったため、息子の左肩の肉を食べてしまいました。この行為が後々、ペロプスが復活した際に、デーメーテールが象牙でできた肩を彼に与える原因となります。また、タンタロスは、オリンポスでの饗宴から神の食物を盗み、人間の友人に分け与えていたことも発覚しました。

永遠の罰

これらの行為により、神々の怒りを買ったタンタロスは、タルタロスに送られ、永遠に続く罰を受けることになります。彼は沼の上に枝を広げた果樹に吊り下げられ、沼の水は彼のあごまで迫りますが、飲もうとすると水は引いてしまいます。また、果樹には美味しそうな実がなっていますが、手を伸ばすと風が吹いて枝が持ち上げられ、決して実を掴むことはできません。彼は、不死の体を持つが故に、永遠に止むことのない飢えと渇きに苦しみ続けることになったのです。

後世への影響

タンタロスの受ける罰は、欲しいものが目の前にあるのに決して手が届かない、じれったい苦しみの代名詞となりました。ヨーロッパ系の言語では、タンタロスの名前が、このような状況を表す慣用句や動詞に用いられています。例えば、英語の動詞「tantalize」は「欲しいものを見せびらかしてじらす」という意味であり、フランス語の「supplice de Tantale」は「タンタロスの責め」として、まさに手が届かない苦しみを意味します。

その他のタンタロス

神話には、このリューディア王のタンタロス以外にも、以下の人物がタンタロスとして登場します。

テュエステースの子で、クリュタイムネーストラーの最初の夫。アガメムノーンによって殺害され、妻を奪われる。
ニオベーの子。

系図

タンタロスの系図は以下の通りです（諸説あり）。

父：ゼウスまたはトモーロス
母：プルートー
妻：エウリュアナッサ（他の説あり）
子：ペロプス

関連事項

タンタル：タンタロスの名前にちなんで命名された元素。
シーシュポス、イクシーオーン：タンタロスと同じくタルタロスに落とされた人間。

参考文献

アントーニーヌス・リーベラーリス『メタモルフォーシス　ギリシア変身物語集』安村典子訳、講談社文芸文庫（2006年）
パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎（1991年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
カール・ケレーニイ『ギリシアの神話　英雄の時代』植田兼義訳、中公文庫（1985年）

この記述は、タンタロスの物語を、より深く理解するためのものであり、彼の罪と罰、そして後世への影響を詳細に解説しています。

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