クリュトネーオス

クリュトネーオス（Κλυτόνηος）

ギリシャ神話において「クリュトネーオス（古希: Κλυτόνηος）」という名は、異なる二つの重要な系譜に属する人物を指す。長音を省略してクリュトネオスとも表記される。一つはナウボロスの子でありアルゴナウタイの一員、もう一つはパイアーケス人の王アルキノオスの子である。それぞれが物語の中で独自の役割を果たしている。

ナウボロスの子 クリュトネーオス

彼の出自は、かつてナウプリアの地を治めたナウプリオス王の家系に連なる。ナウボロスを父に持ち、イーピトスという兄弟がいたと伝えられる。

彼が名を残す最も大きな功績は、英雄イアソンが金羊毛を求めて東方コルキスへと遠征した際に、伝説の船アルゴー号に乗り組んだアルゴナウタイの一員であったことである。多くの武勇に優れた英雄たちが集結したこの冒険譚において、クリュトネーオスは別の才能でその名を馳せた。

叙事詩『アルゴナウティカ』の語り手であるロドスのアポローニオスは、アルゴー船の乗組員たちの中で、クリュトネーオスこそが「最も航海術に長けた者であった」と特筆している。嵐の海、未知の航路、危険な暗礁など、幾多の難局に直面したアルゴー船の旅において、彼の卓越した操船技術や海洋知識は、船と乗組員の安全を守る上で極めて重要な役割を果たしたと考えられる。戦闘や怪力で知られる英雄たちの中で、専門的な技能を持つクリュトネーオスの存在は、アルゴナウタイの多様な才能を示す一例と言えるだろう。

アルキノオスの子 クリュトネーオス

彼はホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する、幸福なパイアーケス人の王アルキノオスとその賢明な王妃アーレーテーの間に生まれた王子である。彼にはラーオダマース、ハリオスという兄弟と、有名な王女ナウシカアーという妹がいた。

トロイア戦争からの帰還の途上で難破し、スケリア島に漂着した英雄オデュッセウスは、ナウシカアーの手引きで王宮に迎えられ、アルキノオス王夫妻から手厚いもてなしを受けた。そのもてなしの一環として、王宮の庭園で盛大な競技会が開催されることになった。

この競技会にはパイアーケス人の若者たちが多数参加し、円盤投げやレスリングなど様々な種目で技を競った。クリュトネーオスは特に徒競走に出場した。競争が開始されると、他の選手たちが懸命に砂煙を上げながら走る中、クリュトネーオスは異次元とも思える速さを見せた。彼の走りはあまりに速く、まるで翼が生えているかのようだったと描写されるほどである。

彼は他の選手たちを一気に置き去りにし、一切速度を緩めることなくコースを駆け抜け、あっという間にゴールラインに到達した。さらに勢いは止まらず、観客たちが座る席のすぐ前まで走り抜けていった。その驚異的なスピードと圧倒的な勝利は、競技を見守っていたパイアーケス人たちはもちろんのこと、客席でその様子を眺めていたオデュッセウスをも深く感心させた。この勝利は、平和で豊かなパイアーケス人の身体能力の高さと、若者たちの活力を示す一幕として鮮やかに描かれている。

まとめ

ギリシャ神話には、ナウボロスの子としてアルゴナウタイに参加し卓越した航海術を示したクリュトネーオスと、パイアーケス人の王子として競技会で並外れた俊足を見せつけたクリュトネーオスという、二人の重要な人物が存在する。彼らはそれぞれ異なる系譜と特技を持ちながらも、「クリュトネーオス」という同じ名の下に、ギリシャ神話の多様な物語世界に彩りを加えている。

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