クルーズトリパノソーマ

クルーズトリパノソーマ

クルーズトリパノソーマ（学名: Trypanosoma cruzi）は、単細胞性の原生動物であり、特に鞭毛虫類に属するキネトプラスト門トリパノソーマ属の一種です。この原虫は、ヒトにおいて重篤な疾患であるシャーガス病の原因となる病原体として知られています。

分類と特徴

生物学的な分類では、原虫類に属し、細胞内に特徴的なDNAを含む構造体であるキネトプラストを持つキネトプラスト門に含まれます。トリパノソーマ属の他の種と同様に、その生活環の中で宿主の体内や媒介昆虫の体内で様々な形態をとることが特徴です。具体的には、トリポマスティゴート型やアママスティゴート型などが知られています。

媒介と宿主範囲

クルーズトリパノソーマは、主にサシガメ科の昆虫によって媒介されます。感染したサシガメがヒトや他の哺乳類を吸血する際に、糞に含まれる原虫が傷口や粘膜から体内に侵入することによって感染が成立します。非常に幅広い範囲の哺乳類がこの原虫に対する感受性を持ち、ヒト以外にも150種以上の哺乳類に感染する可能性があることが確認されています。これにより、多様な動物が感染源となりうる複雑な感染環が形成されています。

分布

この原虫の地理的な分布は特定の地域に偏っており、主に中央アメリカ、南アメリカ、そして限定的ではありますが、米国南部の一部地域で多く確認されています。これらの地域は、媒介者であるサシガメが生息しやすく、動物宿主も豊富に存在する環境です。

シャーガス病の症状

クルーズトリパノソーマがヒトに感染することによって引き起こされる疾患はシャーガス病として知られています。この病気は、感染初期の急性期と、長期間を経て発現する可能性のある慢性期に分けられます。急性期には、以下のような多様な症状が現れることがあります。

発熱
全身性の浮腫（むくみ）
肝臓や脾臓の腫大
血液中に原虫が確認される原虫血症
感染部位の腫れ（サシガメの刺し口周囲など）

慢性期には、特に心臓や消化管に深刻な障害が現れることがあり、心筋炎（心臓の筋肉の炎症）や、食道・結腸の拡張などが報告されています。心筋炎は不整脈や心不全を引き起こし、命に関わることもあります。脳炎（脳の炎症）もまた、クルーズトリパノソーマ感染によって引き起こされる可能性のある重篤な神経系の症状です。

亜種

クルーズトリパノソーマには亜種が存在することが知られており、例えば Trypanosoma cruzi marinkellei* という亜種が、1978年にBaker、Miles、Godfrey、およびBarretによって記載されています。亜種間の違いは、その遺伝的特性や一部の生物学的特性に基づいています。

クルーズトリパノソーマおよびシャーガス病に対する対策としては、媒介者であるサシガメの駆除や、感染リスクのある地域での注意喚起、早期診断と治療が重要となります。

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