クレイグ・ブリーン

クレイグ・ブリーン：才能と情熱、そして突然の別れ

クレイグ・ブリーン。その名は、世界ラリー選手権（WRC）の歴史に、ひとつの輝きと深い悲しみを刻み込んだドライバーとして記憶されるだろう。1990年2月2日、アイルランドのキルケニーに生まれた彼は、ラリードライバーである父レイ・ブリーンの影響を受け、幼い頃からモータースポーツの世界に親しんだ。

当初はカートレースに熱中し、欧州レベルの選手権にも参戦。しかし17歳で初めてラリーに挑戦すると、その才能は一気に開花する。2009年にはフォード・フィエスタで「フォード・フィエスタ・スポーティングトロフィー」に参戦し、見事チャンピオンを獲得。親子2代でMスポーツのマシンをドライブするという快挙も成し遂げた。

その後、ブリーンはWRCアカデミーチャンピオン（2011年）、SWRCチャンピオン（2012年）と、ジュニアカテゴリーで輝かしい成績を残していく。しかし、2012年にはIRCタルガ・フローリオで悲劇に見舞われる。クラッシュ事故により、全幅の信頼を寄せていたコ・ドライバーのギャレス・ロバーツを失ったのだ。この出来事はブリーンに大きな衝撃を与え、一時引退も考えたという。それでも彼は、アイルランド出身のポール・ネーグルと共にWRCへと復帰。幾多の困難を乗り越え、SWRCタイトルを獲得するまでの道のりは、彼の強い意志と才能を証明するものだった。

2014年にはプジョー208T16 R5でERCに参戦し、デビューウィンを飾るなど、その才能はWRCでも開花し始める。2016年にはシトロエンからWRCにスポット参戦し、フィンランドでWRC初表彰台を獲得。翌年にはシトロエンのワークスチームに加入し、フル参戦を果たした。WRCでは表彰台常連のドライバーとして活躍する一方で、マシントラブルやクラッシュに悩まされる時期もあった。それでも彼は、持ち前の明るさと高い技術で、周囲からの信頼を勝ち得ていった。

2019年にはヒュンダイからWRCに参戦。エストニアでは2位表彰台を獲得し、チームに貢献した。2021年にはソルドと共にヒュンダイの3台目のシートを共有し、少ない出場ながらも3度の表彰台を獲得。2022年にはMスポーツに移籍するも、一貫性のある結果を残すことができず、チームを離れることとなった。

2023年、再びヒュンダイに復帰した矢先、4月13日に悲劇が起きた。ラリー・クロアチアに向けたテスト走行中、事故により帰らぬ人となったのだ。33歳の若さだった。

ブリーンは、北欧ラリーを得意とし、安定した走りで表彰台を狙えるドライバーとして知られていた。また、ラリーの歴史にも造詣が深く、プライベートでは往年の名車にまたがりラリーを楽しむ一面もあったという。感情表現も豊かで、走りに自信がある時は笑顔を見せ、悔しい時はその気持ちを隠さなかった。彼は、多くのファンに愛される、人間味あふれるドライバーでもあった。

彼の死は、WRC関係者に大きな衝撃を与えた。FIAは、彼のカーナンバーを今シーズン欠番とすることを決定。各チームは、追悼のバナーを掲げ、彼の死を悼んだ。

クレイグ・ブリーンの短い生涯は、才能と情熱に満ちた、ドラマティックなものであった。彼の残した功績と記憶は、これからも世界中のラリーファンの中で、永遠に語り継がれていくことだろう。

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