クレイジー・ホース記念碑

クレイジー・ホース記念碑：ラコタ族の英雄を象る巨大彫刻

アメリカ合衆国サウスダコタ州のブラックヒルズに位置するクレイジー・ホース記念碑は、オグララ・ラコタ・スー族の戦士「タシュンケウィトコ」（クレイジー・ホース）をモデルにした、巨大な岩面彫刻です。この壮大なプロジェクトは、単なる観光名所ではなく、アメリカ先住民の歴史と文化、そして複雑な民族間の関係を象徴する存在となっています。

記念碑建設の背景

クレイジー・ホースは、19世紀後半に米軍や白人入植者からラコタ族の領土と聖地ハパ・サバ（ブラックヒルズ）を守るために戦った勇敢な戦士です。彼は、1876年の「リトルビッグホーンの戦い」でカスター中佐率いるアメリカ陸軍第7騎兵連隊を全滅させたことで知られています。

記念碑建設のきっかけは、1947年にラコタ族のヘンリー・スタンディング・ベアが、「白人たちにレッド・マン（インディアン）にも偉大な英雄がいることを知って欲しい。ラシュモア山よりも大きなクレイジー・ホースの彫刻を造ってほしい」と彫刻家コルチャック・ジオルコウスキーに依頼したことでした。ジオルコウスキーは、この依頼を受け、クレイジー・ホースの彫刻制作に生涯を捧げることになります。彼は、非営利団体を設立し、連邦政府の支援を拒否することで、自主的な運営を貫きました。この背景には、政府による計画中断を恐れたという理由がありました。

制作の過程と現状

1982年にジオルコウスキーが亡くなった後も、彼の家族が遺志を継ぎ、現在も制作が続けられています。5人の息子と5人の娘がこのプロジェクトに携わり、完成を目指しています。制作方法は、主に爆薬による粉砕彫刻です。1998年には顔の部分が完成し、最終的には馬に乗り、指を差している高さ170m、長さ195mの世界最大の彫像になる予定です。

ステレオタイプと批判

クレイジー・ホース記念碑は、馬に乗り、長い髪をなびかせた裸の戦士が前方を指差す姿をしています。このポーズは、西部劇映画に出てくる「戦争酋長」のイメージを想起させますが、実際には、インディアン社会には「号令をかける」ような役職や地位は存在しません。クレイジー・ホース自身も、白人との接触を極端に嫌い、生涯肖像画や写真を残しませんでした。伝統派の呪術師レイムディアーは、「この像はクレイジー・ホースに全く似ていない」と批判しています。クレイジー・ホースは「指導者」でも「司令官」でもなく、インディアン社会は「大いなる神秘」のもとにすべてを共有する横社会であり、個人の指導や命令という文化は存在しませんでした。この像のデザインは、ジオルコウスキーのステレオタイプなインディアンのイメージに基づいたフィクションであるという批判も存在します。

ラコタ・スー族からの批判

記念碑は観光名所として多くの人を魅了していますが、スー族をはじめとする様々なインディアン部族の間で、賛否両論の議論を引き起こしています。特にスー族の伝統派は、この事業に反対しています。1972年に、ミネコンジュー・スー族のメディスンマン、レイムディアーは、「クレイジー・ホースは金儲けのために利用されている。もしも彼が今生きていれば、この像を叩き壊していただろう」と語りました。また、アメリカインディアン運動（AIM）の活動家であるラッセル・ミーンズは、「この像は、インディアンの文化を歪曲し、彼らのアイデンティティを否定する」と批判しました。彼は、「白人たちは、自分たちの視点からしかインディアンを見ようとせず、自分たちの文化を押し付けようとする」とも述べています。

記念碑の今後

クレイジー・ホース記念碑は、建設開始から70年以上が経過した現在も未完成であり、その完成には更なる時間を要すると見られています。この記念碑は、アメリカ先住民の歴史と文化、そして現代社会における民族間の対話について、私たちに問いかけています。観光客は、その壮大さに見惚れるだけでなく、この記念碑が持つ歴史的背景や、先住民の複雑な感情についても理解を深める必要があるでしょう。

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