ブラックヒルズ

ブラックヒルズは、アメリカ合衆国サウスダコタ州とワイオミング州にまたがる山地です。標高2206mのハーニー山を最高峰とし、古くから先住民にとって重要な場所でした。

紀元前7000年頃より、様々な部族がブラックヒルズに居住していました。1500年頃にはアリカラ族が、その後はシャイアン族、クロウ族、カイオワ族、ポーニー族などがこの地に住み着きました。18世紀にはスー族（ラコタ）がミネソタから移住し、他の部族を駆逐してこの地を支配下に置きました。スー族はブラックヒルズを「パハ・サパ」（黒い丘）と呼び、聖なる地として崇拝しました。

しかし、1874年にカスター将軍がブラックヒルズで金鉱を発見したことで、事態は一変します。この発見はゴールドラッシュを引き起こし、多くの白人探鉱者が殺到しました。彼らは1868年の第二次ララミー砦条約を無視し、スー族の聖地を次々と破壊していきました。白人による侵入路は「カスター道」と呼ばれ、このことがスー族との激しい紛争の始まりとなりました。

第二次ララミー砦条約では、ブラックヒルズは「永遠にスー族のものであり、白人の立ち入りは禁止される」と明記されていました。しかし、アメリカ政府は金鉱発見を機にこの条約を破棄し、1876年にブラックヒルズ戦争を開始、1877年にはブラックヒルズを占拠しました。この戦争中には、リトルビッグホーンの戦いでカスター将軍率いる第7騎兵隊が全滅するなど、多くの犠牲者が出ました。

ララミー条約の文言には、「ブラックヒルズは、太陽が光り輝き、草が生える間は、スー族のものである」という曖昧な表現が含まれていました。アメリカ政府は、この曖昧さを利用し、冬期は「太陽が光らず、草が生えない」と主張することで、条約違反を正当化しようとしました。この解釈をめぐって、スー族とアメリカ政府の間では半世紀以上にわたる法廷闘争が繰り広げられました。

スー族の長老マシュー・キングは、この状況を痛烈に批判しました。「白人どもはわしらを馬鹿扱いしている。誰かがあんたの家を盗みにやって来て、あんたを蹴り出し、またやって来てこう言ったと思いなさい。『おお、すまんすまん、こりゃ悪かった、ほれ、お前の家の代わりに50セントやろう！』若いの、やつらは全くインディアンを小馬鹿にしとるだろう？」

1890年12月29日には、ウンデット・ニーの虐殺事件が発生しました。この事件は、アメリカ政府による先住民弾圧の象徴として記憶されています。1980年6月30日、米国最高裁判所はララミー砦条約違反を認め、スー族への損害賠償を命じました。しかし、スー族はこの賠償を拒否し続け、ブラックヒルズをめぐる問題は現在も解決していません。

ブラックヒルズには、金以外にも銀、タングステン、スズ、石炭、石油などの地下資源が豊富に存在します。また、ウランの埋蔵量も膨大で、多国籍企業による開発が進められています。この開発は、クレーヴン渓谷にあるラコタ・スー族の神聖な岩を脅かしています。米国科学アカデミーはブラックヒルズを「全米の生贄の地域」に指定しています。

現在、ブラックヒルズはラシュモア山、クレイジー・ホース記念碑、ウインドケーブ国立公園など、多くの観光スポットがある観光地として知られています。しかし、その裏には、先住民との紛争、資源開発による環境問題、そして未解決の土地問題といった複雑な歴史と課題が潜んでいます。ブラックヒルズを訪れる際には、その複雑な歴史と、現在も続く先住民との間の葛藤を理解することが重要です。

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