クロム親和性細胞

クロム親和性細胞（Chromaffin Cells）

クロム親和性細胞は、特定の内分泌細胞の総称です。その特徴は、細胞質内にクロム親和性顆粒（クロマフィン顆粒）と呼ばれる分泌小胞を豊富に含んでいる点にあります。この顆粒は、組織切片を重クロム酸カリウムの溶液で処理した際に、特有の褐色調に染色されることから「クロム親和性」という名称がつけられました。この染色性は、顆粒内に貯蔵されているカテコールアミン類などの物質が重クロム酸塩と反応することに由来します。

クロム親和性細胞は主に副腎髄質に存在し、生体にとって重要な役割を果たしています。副腎髄質以外にも、膀胱や前立腺などの組織にも見られることがあります。

消化管における類似細胞

消化管においても、重クロム酸カリウムによる染色で同様の反応を示す細胞群が存在します。これらはそれぞれ、腸クロム親和性細胞（Enterochromaffin Cells, EC細胞）および腸クロム親和性細胞様細胞（Enterochromaffin-like Cells, ECL細胞）と呼ばれ、機能的に区別されます。

EC細胞は、消化管において局所的に作用する生理活性物質であるセロトニンの産生に深く関わっています。一方、ECL細胞はその顆粒内にセロトニンを含まず、代わりにヒスタミンを貯蔵しており、胃酸の分泌調節に関与することが知られています。

生理機能

副腎髄質での機能

副腎髄質に存在するクロム親和性細胞は、発生学的には交感神経の節後神経細胞に由来します。しかし、これらは軸索を失い、ホルモンや神経伝達物質を血流中に放出する分泌細胞へと特殊化しています。交感神経系の節前線維からの刺激を受けると、顆粒内に貯蔵された主要な神経伝達物質であるアドレナリンを速やかに血中へ放出します。このアドレナリン放出は、ストレス応答などに関わる全身的な生理反応を引き起こします。

アドレナリンの生合成は、副腎皮質で産生されるグルココルチコイドというホルモンによって抑制されるという、興味深い調節機構が存在します。

胃での機能（ECL細胞）

胃の粘膜に存在するECL細胞は、胃粘膜の表面積の約1%から3%を占めています。これらの細胞は、副交感神経由来のアセチルコリンや、胃幽門部上皮のG細胞から分泌されるガストリンといった刺激を受けて、ヒスタミンを分泌します。ヒスタミンは、胃の壁細胞からの胃酸分泌を促進する最も重要な因子の一つと考えられています。

ECL細胞におけるヒスタミンの産生は、細胞質に存在する酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素（HDC）によって行われます。合成されたヒスタミンは、分泌小胞である顆粒内へ蓄積されますが、この輸送には2型小胞モノアミン輸送体（VMAT2）が関与しています。VMAT2は、細胞内のH+濃度勾配を駆動力として、H+とヒスタミンを交換しながらヒスタミンを小胞内へ運び込みます。このH+勾配は、小胞膜上のV型ATPアーゼによって能動的に維持されています。分泌されたヒスタミンが、胃の壁細胞に存在する2型ヒスタミン受容体（H2受容体）に結合することで、最終的に胃酸の分泌が誘導されるのです。

腸での機能（EC細胞）

腸に存在するクロム親和性細胞、特にEC細胞は、生体内におけるセロトニンの主要な産生源の一つです。全身で産生されるセロトニンの量のうち、実に約90%が腸管由来であるとされています。腸管で産生されたセロトニンは、消化管の運動調節や知覚に関与するほか、血小板に取り込まれて循環血中にも存在します。過敏性腸症候群などの病態では、この腸管におけるセロトニンの産生や代謝、輸送などの機構に異常が見られることが明らかになっています。

関連疾患

クロム親和性細胞に悪性腫瘍が発生すると、褐色細胞腫と呼ばれる腫瘍になることがあります。特に副腎髄質に生じることが多いですが、副腎外のクロム親和性細胞からも発生します。褐色細胞腫は、腫瘍化した細胞がカテコールアミン（アドレナリンやノルアドレナリンなど）を過剰に産生・分泌するのが特徴です。この過剰なカテコールアミンによって、二次性高血圧をはじめとする様々な全身症状が引き起こされます。

発生起源

クロム親和性細胞は、胎生期の神経系発生過程で現れる神経堤と呼ばれる組織から分化してくることが知られています。これは、副腎髄質のクロム親和性細胞が交感神経細胞由来であることと整合的です。

これらの細胞は、その特異的な染色性から発見され、生体の恒常性維持において神経系と内分泌系の両面から重要な役割を果たしていることがわかっています。

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