クーリュール・デ・ボワ

クーリュール・デ・ボワとは

「クーリュール・デ・ボワ」（複数形、単数形はクーリュール・ド・ボワ）はフランス語で「森を駆ける者」を意味し、17世紀から18世紀初頭にかけて、ヌーベルフランスおよび広大な北米内陸部で活動したフランス系カナダ人の交易者を指します。彼らは特定の組織に属さず、独立して毛皮交易に従事しました。

広範囲に及ぶ森林地帯を探検しながら、ヨーロッパから運ばれた品物と、先住民であるインディアンが採取した毛皮、特に価値の高かったビーバーのペルト（原皮）を交換するのが彼らの主な活動でした。旅の途中で、各地の交易方法や先住民の生活習慣を学び、身につけていきました。

活動の始まりとその背景

ヌーベルフランスの初期、フランス人にとって先住民、特にアルゴンキン諸族との関係は極めて重要でした。彼らは先住民から、この地の生活に必須な白樺の樹皮で作るカヌーや、雪上を移動するためのトボガン、かんじきといった道具の作り方、さらにはトウモロコシの栽培法やサトウカエデからの甘味料採取法など、多くの生活技術を学びました。食料の多くも当初は先住民に頼っていました。

クーリュール・デ・ボワは、このような環境の中で、ヨーロッパ人と先住民の間で交易を仲介する役割として誕生しました。当時のヌーベルフランス総督サミュエル・ド・シャンプランは、若いフランス人を先住民と共に生活させることで、彼らの言語や文化を習得させようとしました。ヒューロン族の中で生活したエティエンヌ・ブリュレはその代表的な例です。

この時代の毛皮交易における先住民は、他の植民地で見られたような搾取の対象ではなく、交易者と対等な立場にあり、フランス人交易者と先住民女性との婚姻も一般的でした。しかし、天然痘などの疫病やアルコールの流入、さらにはキリスト教受容を巡る部族内の対立、そして交易ルートを巡るイロコイ連邦との衝突などにより、ヒューロン族をはじめとする多くの先住民部族が弱体化していきます。これに伴い、クーリュール・デ・ボワが毛皮の供給を直接担うようになっていきました。

特徴と当局との関係

クーリュール・デ・ボワは、単なる放浪者ではなく、毛皮交易を事業とする者たちでした。彼らは出身階層に関わらず、大自然の魅力に惹かれた人々であり、慣れ親しんだ農作業や単調な仕事から逃れ、冒険に身を投じることに誇りを感じていました。自由にあてもなく旅ができることや、厳しい宗教的規律から解放されたいという願望も、彼らを内陸へと駆り立てた要因です。

17世紀末頃には、ヌーベルフランスにおけるクーリュール・デ・ボワの数は著しく増加しました。1680年の記録では、当時のアンタンダン（総監）デュシュノーが、ヌーベルフランスのほとんどの家庭にクーリュール・デ・ボワとして活動する者がいると推定しています。しかし、当局は、発展途上にあった農業から人々が離れて毛皮交易に流れることや、一部の者に見られた放蕩な生活態度といった倫理的な問題に対して批判的な見方をしていました。

ヌーベルフランス総督府は、無秩序になりがちな自営交易を抑え、先住民（後にヴォワヤジュール）との直接取引を優先するため、1654年に毛皮交易の許可制（コンジェ）を導入しました。しかし、この規制はしばしば無視され、多くのクーリュール・デ・ボワが先住民の協力を得ながら非合法に交易を続けました。この非合法な交易を続ける中で、彼らは当局の許可を得た商人の年季奉公人として働く「ヴォワヤジュール（旅行者）」へと徐々に置き換わっていきました。しかし、クーリュール・デ・ボワは完全に姿を消したわけではなく、ヴォワヤジュールが主流となった時代も非正規の交易者として活動を続けた者もいました。

交易の技術とルート

クーリュール・デ・ボワは多才な冒険家であり、同時にビジネスマンでもありました。彼らは熟練したカヌーの漕ぎ手であるだけでなく、漁労、かんじき作り、狩猟といった森林生活に必要な様々な技術に長けていました。先住民と行動を共にすることで、彼らはこれらの技術を習得し、その技量は先住民と比較しても遜色ないレベルに達しました。

毛皮交易を行う上で、先住民の協力は不可欠でした。彼らは広大な地域から毛皮を運び、交易の知識を提供し、クーリュール・デ・ボワとの間に友情を育みました。例えば、メダール・デ・グロセリエとピエール＝エスプリ・ラディソンのように、内陸部の先住民と交易協定を結んだ者もいました。また、ヨーロッパからの品物がもたらされる際、気前よく振る舞うクーリュール・デ・ボワは、先住民から神のように崇められることもありました。このような深い関係は、交易者と先住民の間での人種間結婚にも繋がりました。

初期の交易は危険と隣り合わせでした。地図のない未開の地を旅するため、多くの者が命を落としました。彼らは通常、河川や湖の氷が解ける春（主に5月）に、カヌーに物資や交易品を積み込んで出発しました。主要な交易ルートは限られていました。

一つのルートは、モントリオールからオタワ川とマッタワ川を経由するもので、多くの連水経路（カヌーや荷物を陸路で運ぶ区間）がありましたが、イロコイ連邦やイングランドからの攻撃に対して比較的安全でした。別の主要ルートは、セントローレンス川と五大湖を経由してミチリマキナクやグリーンベイを目指すもので、カタラキ（キングストン）、ナイアガラ、デトロイトなどを通りました。ナイアガラの滝周辺を除けばほぼ水路でしたが、長距離のため、イロコイ連邦による妨害が頻繁に発生しました。当時のセントローレンス川での航行も浅瀬が多く、絶え間ない戦争の中では海上での拿捕の危険もあり、困難を伴いました。

カヌーによる航海は通常1ヶ月ほど続き、時には1日の半分以上を漕ぎ続けることもありました。一部の交易者は自宅から2000キロメートル以上も旅しました。多くの交易者は5月から8月まで、入植地を離れて交易活動を行いました。

長期間の航海に必要な荷物の準備は骨の折れる作業でした。クーリュール・デ・ボワの活動には、食料や交易品を含め、30品目以上の物資が必要とされました。彼らは先住民から食料、獲物、魚などを物々交換で入手しましたが、カヌーの積載量の大部分は、交易品であるラシャや麻の布、毛布、弾薬、金属製品（ナイフ、手斧、やかん）、鉄砲、時には衣類などが占めました。航海中の食料としては、軽量で腐敗しにくいものが選ばれました。特に、バッファロー肉で作られるペミカンは、先住民の保存食ですが、長旅に耐える特性からクーリュール・デ・ボワにとって非常に重要な食料源となりました。

著名なクーリュール・デ・ボワ

メダール・シュアール・デ・グロセリエ（1618年頃－1696年）
フランス人探検家・毛皮交易者。ケベックに移住後、先住民社会で交易技術を学びました。義兄弟ピエール＝エスプリ・ラディソンと共に内陸を探検しましたが、ヌーベルフランス当局と対立し、イングランドに寝返ってハドソン湾会社の設立に貢献しました。
ピエール＝エスプリ・ラディソン（1636年頃－1710年）
フランス系カナダ人の交易者・探検家。若い頃モホーク族に捕らえられ、彼らの集落で生活した経験を持ちます。義兄弟グロセリエと共に新たな交易ルートを開拓しようとしましたが当局に受け入れられず、共にイングランドへ渡りハドソン湾会社の設立に関わりました。
* ジャン・ニコレ・ド・ベルボルヌ（1598年頃－1642年）
フランス人のクーリュール・デ・ボワ。現在のウィスコンシン州グリーンベイを探検したことで知られます。サミュエル・ド・シャンプランに見出され、アルゴンキン族と共に生活して言語を習得し、通訳として活躍しました。先住民社会に深く受け入れられ、重要な交易任務も任されました。

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