ペミカン

ペミカン (Pemmican) : 北米先住民の伝統的な保存食

ペミカンは、カナダやアメリカに住む先住民族（インディアン）が古くから作ってきた伝統的な保存食・携行食です。クリー語の「脂肪」を意味する「pimî」に由来する「ピミーカーン (pimîhkân)」が語源で、ラコタ語では「みな混ぜたもの」を意味する「ワスナ(wa-sna)」と呼ばれます。

ペミカンの概要

ペミカンは、動物性脂肪を加熱して溶かし、そこに粉砕した乾燥肉やドライフルーツなどを混ぜて、冷やして固めることで保存性を高めた食品です。毛皮交易の時代には、携帯保存食として広く利用されました。

材料は入手可能なものが何でも使われました。肉は、アメリカバイソン、ヘラジカ、シカなどが一般的でした。ドライフルーツとしては、クランベリーやサスカトゥーンベリーがよく用いられました。ベリー類の中でも、チェリー、スグリ、セイヨウカマツカ、ブルーベリーなどを使ったペミカンは、冠婚葬祭などの特別な機会に食べられることが多く、現代でも同様に特別な食べ物として扱われています。また、パウワウ（集会）などの儀式にも供されることがあります。

上質なペミカンは、脂肪分の少ない肉と骨髄の脂肪で作られたもので、毛皮交易時代には購入者の間で厳格な仕様が存在したそうです。

ペミカンの製造方法

1. 肉の乾燥: 肉を薄くスライスし、火で炙るか、日当たりの良い場所に長時間晒して乾燥させます。乾燥した肉はクリー語で「Pânsâân」（干し肉）と呼ばれます。乾燥させることで水分が抜け、体積と重量が大幅に減少します。約2.3kgの生肉から、約450gの乾燥肉が得られます。
2. 粉砕・混合: 乾燥させた肉を石臼などで粉砕し、加熱して溶かした獣脂と混ぜ合わせます。ドライフルーツを加える場合は、別で砕いておき、肉と脂肪を混ぜたものに加えます。肉と脂肪の体積比はおおよそ1:1です。
3. 保存: 混ぜ合わせたものを生皮の袋に詰めて貯蔵します。

ペミカンのレシピは法的に定められているわけではないため、賞味期限や保存期間は、使用する肉や脂肪の種類、調理法、保存条件によって異なります。しかし、北米の低温低湿な環境下では、直射日光を避け、風通しの良い場所に保管すれば1年から5年ほど保存が可能と言われています。雪に閉ざされる地域では、低温の地下室で10年以上保存できたという逸話も残っています。適切に冷凍・冷蔵すれば、さらに長期の保存も可能と考えられています。

注意: 上記の保存期間は北米の低温低湿な地域での事例であり、他の地域や環境では条件が異なるため、あくまで参考としてください。

極地探検・登山用保存食としての利用

ペミカンは、ロバート・スコットやロアール・アムンセンなどの極地探検家にとって、貴重な高カロリー食品でした。適切に包装すれば長期保存が可能であり、砕いた極地用ビスケットとともに湯に溶かし、シチューのような「フーシュ」として食べられていました。

日本でも、大学の山岳部などが長期の冬季登山で使用することがありました。ただし、日本の登山家が手作りするペミカンは、本来のものとは異なり、現地での調理の手間を省くための簡易的な食品という意味合いが強いです。近年では市販のレトルト食品が普及したため、登山用保存食としてのペミカンを知らない人も増えています。

犬用のペミカン

イギリスの北極探検隊は、犬ぞりを引く犬に牛肉製のペミカンを与えていました。これは「ボブリル・ペミカン」または「犬用のペミカン」と呼ばれ、タンパク質が2/3、脂肪が1/3で、炭水化物は含まれていませんでした。しかし、このペミカンはタンパク質の割合が高すぎて犬の健康に良くないと後に判明しました。

アーネスト・シャクルトンの南極探検隊（1914年 - 1916年）の隊員たちは、船が氷に阻まれて動けなくなった際、犬用のペミカンを食べて生き延びたというエピソードがあります。

その他のペミカン

米軍は19世紀後半のインディアン戦争で、ビーフジャーキーやピノーレ（コーンミール）とともに、ペミカンを軍用糧食に採用しました。
第二次世界大戦中には、ペミカンを参考に「ペミカンビスケット」を開発しましたが、評判は良くなかったようです。
現代では、コンアグラ・フーズやインターマウンテン・トレーディング社が「ペミカン」というブランド名で食品を販売していますが、伝統的なペミカンとは異なるものです。
カカオバターを使ったホワイトチョコレートにナッツやドライフルーツを混ぜて冷やし固めたものが、ペミカンの代用品として作られることもあります。これは高カロリーで手軽に作れ、ベジタリアンにも適しています。
* シベリアの先住民・ナナイは、魚を茹でて乾煎りした保存食「タクサン」を作り、ベリーと混ぜて食べたり、魚油で練り上げて携帯食として利用しています。

ペミカンは、その土地の知恵と工夫が詰まった、伝統的な保存食と言えるでしょう。

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