グエン・バン・チュー

グエン・ヴァン・チュー（阮文紹、Nguyễn Văn Thiệu）は、1923年4月5日に仏領インドシナで生まれ、2001年9月29日にアメリカ合衆国で亡くなった、ベトナム共和国（南ベトナム）の元大統領です。欧米諸国や日本では、彼の姓であるグエンではなく、名前の最後の部分である「チュー」として知られていました。

生い立ちと初期のキャリア

チューは、ニントゥアン省の地主の家庭に生まれました。当初はホー・チ・ミンのベトミンに参加し、地区の責任者まで務めましたが、ベトミンの共産主義的な側面や蛮行に幻滅し、脱退しました。その後、海軍学校を経てダラットの士官学校へ転校し、1951年に卒業しました。ベトナム国軍では着実に昇進し、ホー・チ・ミン率いる北ベトナムとの戦いで頭角を現しました。

クーデターと国家指導者への道

ベトナム戦争中の1965年、チューはグエン・カオ・キ首相らと共に軍事クーデターを起こし、南ベトナムの実権を掌握しました。国家指導評議会議長に就任し、事実上の国家元首となりました。このクーデターは、南ベトナム政治の混乱期における重要な転換点となりました。

大統領としての統治

1967年9月3日、チューは大統領選挙で38%の得票を得て当選し、ゴ・ジン・ジェム以来の大統領となりました。しかし、その統治は野党や報道機関への弾圧を伴い、「小さな独裁者」と揶揄されました。1971年の大統領選挙では唯一の候補者として100%の票を得て再選されましたが、その政権は反対勢力を排除する傾向を強めました。チューは、クーデターを警戒するあまりパラノイアに陥り、政権はイエスマンで固められていきました。また、ベトミンから転向した経緯から、彼は徹底した反共主義者であり、北ベトナムや南ベトナム解放民族戦線との交渉を拒否し続けました。

失脚と亡命

1975年4月17日、アメリカ合衆国議会が軍事援助を拒否したことを受け、チューは同年4月21日に大統領を辞任しました。辞任演説では、作戦失敗の責任を軍部に押し付け、自由主義陣営を見捨てたとしてアメリカとヘンリー・キッシンジャー国務長官を批判しました。また、自身の汚職や腐敗を報道した国内外の報道機関も非難しました。辞任から9日後の4月30日、サイゴンは陥落し、南ベトナムは滅亡しました。サイゴン陥落時、チューは自宅から大量の金塊を持ち出して逃亡しようとしたとも伝えられています。

チューは、アメリカ軍の支援を受けながら台湾、イギリスを経て、最終的にはアメリカ合衆国マサチューセッツ州へ亡命しました。その地で、彼は生涯を終えました。

結論

グエン・ヴァン・チューは、ベトナムの激動の時代を象徴する人物です。彼の政治的リーダーシップは、南ベトナムの崩壊へとつながる様々な要因を体現しており、その生涯はベトナム現代史における重要な教訓を提示しています。彼の統治は、独裁的な傾向と反共主義に特徴づけられ、アメリカとの関係、そしてベトナム戦争の複雑さを理解するための重要なケーススタディとなっています。

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