グランドナショナル

グランドナショナル：イギリスを代表する過酷な障害競走

毎年4月、イギリス・リヴァプールのエイントリー競馬場で行われるグランドナショナルは、世界でも有数の名高い障害競走です。その過酷さ、人気、そして歴史は、多くの競馬ファンを魅了し続けています。

レースの概要

グランドナショナルは、約6907メートルの長距離にわたる過酷なレースです。馬たちは、計16個の障害を30回以上も飛越する必要があります。その難易度から「世界一過酷な障害レース」と称されることも多く、完走できる馬は少ない年もあります。

イギリス国内では最も人気のある競馬レースであり、馬券売上額はダービーステークスやチェルトナムゴールドカップを凌駕するほどです。2007年には約655億円、2015年には約540億円、そして2019年には約437億円もの賭け金が投じられたと推定されています。年によっては、日本の有馬記念を上回る馬券売上額を記録することもあります。

このレースは、グランドナショナルミーティングのメインイベントとしてハンデキャップ競走で行われます。ほぼ毎年、40頭の出走馬が競い合いますが、過酷なコースゆえに完走頭数は10頭を下回ることも珍しくありません。

スタート方法も歴史の中で変化しています。かつてはスターティングバリアー直後に整列していましたが、発走の遅延が頻発したため、2008年からバリアー後方からのスタートに変更。しかし、2021年には再び発馬機を使用したスタートに戻っています。

スポンサーは、過去にはビール会社や酒造会社が務めていましたが、2017年からは化学検査会社ランドックス・ヘルスが5年契約でスポンサーとなっています。2017年時点での賞金総額は100万ポンドで、障害競走としては世界最高額です。

出走基準は厳しく設定されています。2012年からは、満7歳以上で、ステープルチェイス競走で10勝以上、さらに3マイルのステープルチェイス競走で4着以内に入った実績が求められます。この基準は、2011年のレースで2頭の馬が死亡した事故を受けて厳格化されたものです。2022年まではグレード3の重賞でしたが、2023年からプレミアムハンデキャップ重賞となっています。

コースと障害

グランドナショナルは、エイントリー競馬場のナショナルコースを2周します。このコースは、4月と11月の特定のレースのみに使用されます。ほぼ平坦な周回コースで、1周は3600メートルです。

このレースで使用される障害は、イギリスとアイルランドで一般的なものとは異なり、トウヒの枝で作られています。16個の障害があり、ザ・チェアと呼ばれる障害と水濠障害を除いて、各障害を2回飛越します。いくつかの障害には固有の名称が付けられており、ビーチャーズブルック、フォイネイボン、キャナルターン、バレンタインズブルック、ザ・チェアなどが有名です。

中でも最難関とされるのはビーチャーズブルックです。着地側が踏み切り地点より低いため、バランスを崩しやすいことから、毎年多くの落馬事故が発生します。ザ・チェアは、踏み切り地点に乾壕があり、最も高い障害です。キャナルターンとフォイネイボンも、コーナーの形状から馬が密集しやすく、多重落馬の原因となることがあります。

2001年には、キャナルターンで空馬が横切ったことで多重落馬事故が発生しました。この事故以降、キャナルターンには退避通路が設置されました。

各障害の高さは、低くて約137cm、高くて約157cmとさまざまです。また、乾壕や水濠のある障害もあり、馬と騎手の技術と判断が試されます。障害の形状や大きさは、歴史の中で何度か変更されています。初期には、石壁障害が水濠障害に変更されたり、安全対策として傾斜や踏み切り板が追加されたりしています。

2周目のレース中に、多重落馬事故や故障馬の発生により、障害の飛越が危険と判断された場合は、係員がチェッカーフラッグを振ります。この場合、馬は退避通路を通って障害をパスすることができます。

歴史

グランドナショナルは、1836年2月29日にリヴァプールのホテル経営者ウィリアム・リンによって創設されました。当初は「リヴァプール・グランドナショナル・スティープルチェイス」という名称でした。1839年から公式に回数をカウントしていますが、実際には1836年から同様の競走が行われていました。

歴史の中で、数々のドラマチックな出来事や事故がありました。1862年には騎手が死亡する事故が発生、1928年にはキャナルターンで集団落馬が発生し、優勝馬と2着馬のみが完走するという事態もありました。1954年には4頭もの馬が死亡するなど、動物愛護の観点からも議論を呼んできました。1993年にはスターティングバリアーのトラブルによりレースが中止になったこともありました。また、1997年にはIRAからの爆弾予告でレースが中止、翌日に延期される事態も起きています。

近年では、2020年に新型コロナウイルスの影響で初めて中止、2021年には女性騎手レイチェル・ブラックモアがミネラタイムズで優勝し、歴史的な記録を樹立しました。2023年には動物愛護活動家のコースへの乱入というアクシデントもありました。

グランドナショナルは、単なる競馬レースにとどまらず、イギリスの歴史と文化を象徴するイベントとして、人々を魅了し続けています。

記録

レースレコード：8分47.8秒 (ミスターフリスク、1990年)
最多出走頭数：66頭 (1929年)
最多完走頭数：23頭 (1984年)
最少完走頭数：2頭 (1928年)
最多勝利馬：レッドラム (3勝)
最多勝利騎手：ジョージ・スティーヴンス (5勝)
* 最高齢勝利馬：ピーターシンプル (15歳)

日本との関わり

過去には、日本の中山大障害4勝馬フジノオーが参戦したことがありますが、最重ハンデで競走中止となりました。また、日本人騎手も参戦したことがありますが、いずれも完走には至っていません。

バーチャルグランドナショナル

2017年から毎年開催されているバーチャル版のグランドナショナルも存在します。

各国の「グランドナショナル」

グランドナショナルは、世界各地で同様の名称を持つレースが開催されています。

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