グリーゼ667

グリーゼ667（Gliese 667）

グリーゼ667は、地球からおよそ22.1光年（約6.8パーセク）の距離に位置する、3つの恒星からなる星系です。夜空ではさそり座の方向に見え、視力が良ければ肉眼でも一つの星として確認できます。その見かけの明るさは5.89等級です。GJ 667やHR 6426など、いくつかの異なる名前でも呼ばれています。

この星系は、天球上を背景に対して比較的速く移動しているという特徴も持っています。これは、地球から見ると、年間に1秒角以上動いて見えることを意味します。

恒星系の構造

グリーゼ667星系は、グリーゼ667Aとグリーゼ667Bという、比較的明るく大きな2つの星と、それらに比べてずっと暗く小さなグリーゼ667Cという星で構成されています。

明るいグリーゼ667Aとグリーゼ667Bは、互いの周りを楕円軌道を描いて公転しています。2つの星の平均的な見かけの距離は1.81秒角で、実際の平均距離は約12.6天文単位（AU）と推定されています。これは地球と太陽の距離の約13倍に相当します。軌道の離心率が0.58と大きいため、最も近づいた時は約5AU、最も離れた時は約20AUまで距離が変化します。このペアの公転周期は約42.15年です。地球から見た軌道面は、約128度の角度で傾いています。

一方、グリーゼ667Cは、このA/Bペアの周りをさらに外側から回る軌道を取っています。A/Bペアから見たグリーゼ667Cの見かけの距離は約30秒角で、実際の距離に換算すると約56AUから215AUの間を移動していることになります。

個々の恒星について

グリーゼ667A: この星系で最も大きい星です。スペクトル分類はK3Vに属するK型主系列星で、太陽より少し小さく暗いタイプです。質量は太陽の約73%、半径は約76%ですが、放出するエネルギーの総量は太陽の12〜13%程度です。星を構成する物質のうち、水素やヘリウム以外の「金属」と呼ばれる元素の比率が非常に低く、太陽の約26%程度しかありません。地球から見た見かけの明るさは6.29等級で、距離の影響を取り除いた絶対等級は7.07等級です。

グリーゼ667B: グリーゼ667Aに次ぐ大きさの星です。スペクトル分類はK5Vで、こちらもK型主系列星です。質量は太陽の約69%で、これはA星の質量の約95%にあたります。放出するエネルギー量は太陽の約5%程度です。見かけの明るさは7.24等級、絶対等級は8.02等級です。

* グリーゼ667C: この星系で最も小さな星です。質量は太陽の約37%、半径は約42%しかありません。スペクトル分類はM1.5Vの赤色矮星に分類されます。放出するエネルギー量は太陽のわずか1.4%程度と非常に小さく、表面温度も約3,700Kと低いと考えられています。見かけの明るさは10.25等級、絶対等級は11.03等級です。

惑星系

特に興味深いのは、最も小さなグリーゼ667Cの周りに、複数の太陽系外惑星が発見されていることです。

これまでに、グリーゼ667Cbとグリーゼ667Ccという2つの惑星の存在が確認されています。どちらの惑星も、地球より質量が大きいけれどもガス惑星ほどではない「スーパーアース」に分類されます。Cbは地球の約5.7倍、Ccは地球の約4.5倍の質量を持ちます。

惑星Cbは、主星のグリーゼ667Cから約0.05AU（太陽-地球間の距離の約5%）の軌道を約1週間で公転しています。一方、惑星Ccは、約0.123AUの軌道を約4週間かけて公転しています。

特に惑星Ccは、主星からの距離が適切で、表面に液体の水が存在しうる領域、すなわちハビタブルゾーン（生命居住可能領域）内に位置していると考えられています。発表当時、Ccは液体の水を持つ可能性が最も高い系外惑星候補の一つとして注目され、生命が存在する可能性への期待が高まりました。

惑星Cbは、2009年10月19日にHARPSグループによって他の多くの系外惑星と共に発表されました。惑星Ccは、2011年11月21日にカーネギー研究所などの研究者によって初めて存在が示唆され、2012年2月2日に専門誌で正式に発表されました。

これらの2つ以外にも、2013年には、グリーゼ667Cの周りに最大5つの惑星（Cd, Ce, Cf, Cg, Ch）が存在する可能性が指摘され、特にCeとCfもハビタブルゾーンにある可能性が示されました。これにより、1つの星系に最大3つのハビタブル惑星が存在するとして大きな話題となりました。しかし、その後の詳しい観測データ分析では、これらの5つの惑星の発見は観測データに含まれるノイズを誤って惑星の信号と判断したのではないか、という否定的な見解も出ており、現時点ではCbとCc以外の存在は確定していません。

もしグリーゼ667Ccの表面に立つことができるなら、そこから主星のグリーゼ667Cを見ると、その大きさは地球から見た太陽の2.3倍、見かけの直径は約1.24度にもなると推測されています。

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