グリーゼ667Cc

グリーゼ667Cc（Gliese 667 Cc）は、地球からおよそ24光年の距離にある太陽系外惑星です。さそり座の方向に位置するこの惑星は、三重連星系グリーゼ667を構成する星の一つ、赤色矮星グリーゼ667Cの周囲を巡っています。

地球よりも数倍の質量を持つものの、天王星や海王星のような巨大ガス惑星ではない「スーパーアース」に分類されます。特筆すべきは、主星グリーゼ667Cの生命居住可能領域、すなわち「ハビタブルゾーン」内を公転している点です。このため、発見当初から潜在的な居住可能性を持つ惑星として大きな注目を集めました。

発見の経緯

グリーゼ667Ccの存在は、2011年11月21日に初めて公にされました。これは、ヨーロッパ南天天文台がチリのラ・シヤ観測所にある高精度視線速度系外惑星探査装置（HARPS）を用いて行った観測データを解析した研究チームによるものです。

彼らは、惑星の重力が主星であるグリーゼ667Cの動きに与える微妙な影響を、星の光（スペクトル）のずれ（ドップラー効果）として捉える「ドップラー分光法」という手法で惑星を発見しました。その後、2012年2月2日には、別の研究機関による独立した観測結果が査読付きの学術誌で発表され、HARPSによる発見が裏付けられることとなりました。グリーゼ667Ccは、確認された太陽系外惑星の中で、最初に潜在的な居住可能性が指摘された事例の一つと見なされています。

特徴

グリーゼ667Ccの正確な物理的性質はまだ完全に解明されていません。発見に用いられたドップラー分光法の性質上、求められているのは質量の「下限値」のみであり、これは地球の約3.7倍と推定されています。真の質量はこれよりも大きい可能性があります。

主星グリーゼ667Cは、太陽に比べて質量が小さく（太陽の約3割）、温度も低い赤色矮星です。そのため、グリーゼ667Ccは主星から非常に近い、約0.125天文単位（地球・太陽間の距離の約8分の1、約1870万km）の軌道を公転しています。これは太陽系内で言えば水星の軌道よりも内側にあたります。

これだけ主星に近いにもかかわらず、主星自体が暗いため、グリーゼ667Ccが主星から受け取るエネルギー量（放射束）は、地球が太陽から受け取る量の約9割程度と計算されています。さらに、赤色矮星から放出されるエネルギーの多くが赤外線である点を考慮すると、惑星が実際に吸収・利用できるエネルギー量は地球とほぼ同等である可能性も指摘されています。

惑星は、この軌道を約28日という比較的短い公転周期で一周しています。大きさについては直接的な観測データはありませんが、推定される質量から、地球の半径の約1.5倍程度であると推測されています。

居住可能性と懸念点

グリーゼ667Ccが主星のハビタブルゾーン内、特にゾーンの内縁近くに位置することは、液体の水が存在しうる環境を持つ可能性を示唆しています。大気の効果を無視し、表面が光を3割反射すると仮定した場合の計算上の平衡温度は摂氏4度となり、これは地球の平衡温度（摂氏-18度）よりも高い値です。

プエルトリコ大学の Planetary Habitability Laboratory (PHL) による評価でも、グリーゼ667Ccは主星の「保守的なハビタブルゾーン」内に含まれるとされており、地球との類似性を示す指標である「地球類似性指標（ESI）」の値は0.80と、潜在的に居住可能な惑星の中では比較的高い値を示しています。

しかし、グリーゼ667Ccの居住性については、いくつかの懸念も指摘されています。

一つは、主星が低質量の赤色矮星である点です。赤色矮星は寿命が非常に長い反面、活動が活発で強力なフレアやX線を放出することがあり、これが惑星の大気や表面の生命に悪影響を及ぼす可能性があります。また、2017年の研究では、太陽の質量の65%未満の恒星を回る惑星では、生命の誕生・進化を妨げる未知の要因が存在する可能性が示唆されており、主星グリーゼ667Cが太陽の約3割の質量であることを考慮すると、居住性が単純な軌道や温度の計算から期待されるほど高くない可能性もあります。

もう一つは、主星に近い軌道のため「潮汐固定」されている可能性が高い点です。これは、惑星の片側の面が常に主星を向き、反対側が常に主星と反対方向を向く状態です。主星を向いた面は極端に高温に、反対側の面は極端に低温になることが予想されます。ただし、この両極端な領域の間にある「明暗境界線」付近では、液体の水が存在可能な適度な温度領域が存在する可能性も指摘されています。

さらに、2013年に発表された研究では、グリーゼ667Ccが主星からの強い「潮汐加熱」を受けている可能性が示されました。その強さは地球が受ける潮汐加熱の約300倍にも達すると計算されており、これは惑星内部を活発にする一方で、表面環境に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。この強い潮汐加熱も、発見当初に期待されたグリーゼ667Ccの居住可能性を低下させる要因となりうると考えられています。

これらの様々な要因を考慮すると、グリーゼ667Ccの居住性については、初期の見解よりも複雑で不確実な側面があると言えます。今後のさらなる観測や研究によって、その真の姿が明らかになることが期待されます。

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