グール

グールの概要

グール（アラビア語: غول, ghūl）は、アラビアの伝承に登場する特異な怪物で、主に死体を食べる存在として知られています。また、ゴールやゴリといった呼称でも広まっています。その英語名である「ghoul」はアラビア語の「al ghûl」が由来で、女性を指す場合は「グーラ」と呼ばれます。この言葉の根源は「掴む」「攫う」を意味する動詞「ガーラ」に由来し、死体を食する姿が特徴的に表現されています。日本では屍食鬼（ししょくき）や食屍鬼（しょくしき）といった訳されることが多いです。

グールの伝承

アラビアの伝承では、グールは砂漠に潜む悪魔のような存在として描かれ、姿や体色を自在に変える能力があります。主にハイエナの姿を取り、人間の死体を墓から掘り起こして食べたり、小さな子供をさらって食べることが語られています。また、旅行者を砂漠に誘い込み、命を奪って食べる恐ろしい存在でもあります。民話の中では、グールが人間の誰かに化けてこっそりとその肉を食べるといった話も存在します。

女性のグーラは美しい女性に化けて男性を誘惑し、魅了したその男性を捕食することも言われています。グールは雌雄が存在し、その母親は子供を育てるために授乳を行います。人間がその乳を吸うことで乳兄弟となり、その結果、グールの仲間になるといった伝説もあります。また、アラブの民話では、グールには知恵と社会性がある存在として描かれ、人間との会話も頻繁に交わされることがあり、その一方で、一部には道徳的な教えを持つ善良なグールが存在し、神の創ったジンとされることもあります。

イスラム社会におけるグールの存在

イスラム社会では、グールは実在の存在として恐れられることが多いです。特に、イスラム教の成立以前からアラビア半島で語り継がれていた存在であり、後にハディースに取り入れられました。グールを退治したとされる二代目カリフの伝説が残っているほど、その影響力は強いです。

グールの変身能力は色を自在に変える保護色を持ち、さらに様々な人間の姿に化けることができます。アラビアのことわざには「グールのように色を変える」といった表現が存在し、異常行動を示す相手について「グールに化けている」といった言い方が一般的です。このような背景から、魔女狩りのような差別を受けたり、殺害の対象になることもありました。

預言者ムハンマドは、グールから逃れる方法としてアザーンを繰り返し唱えることをすすめていたとも伝わります。さらに、グールは鉄を恐れるため、常に鉄でできた剣を持つことが有効言われています。

現代のイスラム社会では、グールは犯罪者を怪物化した存在とも見なされており、旅人を襲う盗賊や、他人に成りすます詐欺師の行為を例えることが多いです。そういう背景から、ウラマーの中にはグールは本来存在しないという意見もあり、かつてのカリフが戦ったグールの伝説も盗賊を比喩したものとする見解もあります。

フィクションにおけるグール

アラビアの伝承においてはグールは生物として表現されていますが、現代の日本のゲームや小説、漫画では、アンデッドモンスターとして存在していることが多いです。特に『クトゥルフ神話』では、ラヴクラフトの短編小説「ピックマンのモデル」において、犬のような顔を持つ地下に住む怪物として描かれています。人間がグールに変わることもあるようです。

また、ロールプレイングゲーム『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』では、吸血鬼に血を与えられた生物として登場します。このグールは、超常の力を持つ一方で、血が切れると急速に老化し命を失います。さらに、グールにされた者は血を与えた吸血鬼に従属する運命にあります。

日本の漫画『東京喰種トーキョーグール』では、人肉を栄養素として摂取する亜人種族「喰種」の存在が主題であり、グールとしての特異な設定が物語の重要な要素となっています。これにより、さまざまな文化やメディアにおいてグールは多様に表現され、独自の存在感を持ち続けています。

まとめ

グールはアラビアの伝承から強く影響を受けた存在で、多彩な特徴と悪役としての側面を持つことから、今日でもさまざまなフィクションで人気があります。

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