ケリー (駆逐艦)

イギリス海軍駆逐艦「ケリー」（HMS Kelly, F01/G01）

「ケリー」は、イギリス海軍のK級駆逐艦の嚮導艦として、その名を歴史に刻みました。艦名は、ジョン・ドナルド・ケリー海軍元帥に由来します。第二次世界大戦の激戦を潜り抜け、数々の戦功を挙げましたが、1941年5月23日にその短い生涯を閉じました。

艦歴

「ケリー」は、1937年8月26日にタイン河畔ヘブバーンのホーソン・レスリー社で起工され、1938年10月25日に進水、1939年8月23日に就役しました。就役後は、ルイス・マウントバッテン大佐が艦長兼駆逐艦戦隊司令を務める第5駆逐艦戦隊の旗艦として活動しました。

本国海域での活動（1939年）

第二次世界大戦勃発直後の1939年9月4日、ポートランド沖で対潜訓練中にドイツ潜水艦の攻撃を受けましたが、幸いにも被害はありませんでした。同年9月中旬には、ウィンザー公爵夫妻をフランスからイギリスへ帰還させる任務を遂行。9月17日には、ドイツ潜水艦「U-29」によって撃沈された空母「カレイジャス」の生存者を収容し、デヴォンポートへ送り届けました。また、9月20日には空母「ハーミーズ」を護衛し、対潜哨戒任務に就きました。

1939年11月5日、「ケリー」は悪天候による損傷のため、1ヶ月間の修理を余儀なくされました。修理完了直後の12月14日には、タンカー「アセルテンプラー」がドイツ駆逐艦が敷設した機雷に触れてしまいます。「ケリー」と駆逐艦「モホーク」は、救難タグボートを護衛して救援に向かいましたが、その救援活動中に「ケリー」自身も触雷し、甚大な損傷を負いました。幸い、タグボートによる曳航でタイン川に戻り、ホーソン・レスリーの造船所で3ヶ月以上にも及ぶ修理を行うこととなりました。

修理から復帰した直後の1940年3月8日には、駆逐艦「グルカ」と衝突し、再び損傷。艦体に大きな亀裂が生じたため、3月16日にブラックウォールへ向かい、6週間をドックで過ごしました。4月25日に修理を終え、翌日には第5駆逐艦戦隊へ復帰するためスカパ・フローへ向かいました。

ノルウェーの戦い（1940年）

1940年5月、「ケリー」はナムソスからの撤退作戦に参加しました。5月1日の撤収は濃霧のため中止となりましたが、マウントバッテン大佐の提案により、駆逐艦による兵員収容が実施されました。「ケリー」を含む4隻の駆逐艦は、濃霧の中をフィヨルド内へ進入しましたが、霧が薄く、ドイツ軍機の攻撃を受けました。この攻撃で駆逐艦「マオリ」が損傷し、戦線を離脱。5月2日から3日にかけての夜、重巡洋艦「ヨーク」と4隻の駆逐艦は、ナムソスからの部隊収容を成功させましたが、帰路、ドイツ軍機の攻撃で2隻の艦を失いました。「ケリー」は270名のフランス兵を乗せ、5月4日にスカパ・フローに帰還しました。

その後、「ケリー」は兵員輸送船の護衛任務に就き、ロサイスへ移動。5月9日から10日にかけての夜、軽巡洋艦や駆逐艦と共に敵艦艇を捜索中、ドイツのSボート「S-31」の雷撃を受け、大破してしまいます。タグボートに曳航されながらも、Sボートや敵機の攻撃に耐え抜き、4日後に帰還。この時のダメージコントロールの成功は、海軍のポスターになるほどでした。しかし、修理のため、1940年12月まで戦線復帰は叶いませんでした。この年の「ケリー」の活動日数はわずか23日と、不運続きでした。

1940年5月に、「ケリー」のペナントナンバーはG01に変更されました。

地中海での活動（1941年）

1940年12月、「ケリー」は第5駆逐艦戦隊に復帰し、フェロー諸島での対潜哨戒やドーバー海峡での敵艦艇捜索、ブレスト沖合への機雷敷設の護衛などの任務に就きました。1941年4月には、第5駆逐艦戦隊と共に地中海へ移動することになります。

ジブラルタルでS部隊を編成し、地中海艦隊に加わった「ケリー」は、4月28日にマルタに到着。第5駆逐艦戦隊の僚艦と共に、北アフリカへ向かう敵船団攻撃に参加しました。5月1日には、敵船団の攻撃に向かいましたが、捕捉に失敗。5月2日には、戦隊がマルタに入港中に駆逐艦「ジャージー」が触雷沈没し、港口を塞いでしまったため、他の艦艇はマルタを離れてジブラルタルへ向かうこととなりました。5月8日、「ジャージー」の艦体が一部除去され、「ケリー」ら3隻は出航し、MD4作戦に参加。これは、地中海で複数の船団を運航するというもので、戦車を積載した船団をエジプトへ護衛する作戦でした。5月10日には、「ケリー」は他の駆逐艦と共にベンガジ砲撃を行いました。

5月21日、「ケリー」を含む第5駆逐艦戦隊は、クレタ島海域へ向かいました。5月22日、第5駆逐艦戦隊はクレタ島沖でA1部隊と合流し、撃沈された軽巡洋艦の生存者救助に当たりました。救助活動後、第5駆逐艦戦隊はキッサモとハニア湾の哨戒を命じられ、「ケリー」は「カシミール」と共にハニア湾へ向かいました。

5月23日7時55分、後退中の「ケリー」と「カシミール」は、クレタ島南方13マイル地点で、24機のJu 87急降下爆撃機による攻撃を受けます。まず、「カシミール」が被弾し、わずか2分で沈没。「ケリー」も対空戦闘で3機を撃墜したものの、被弾して傾き、沈没しました。

その後

「ケリー」と「カシミール」の生存者は、敵機による機銃掃射にさらされますが、遅れて到着した「キプリング」が救助活動を行いました。その救助活動中に「キプリング」も損傷するなど困難を極めましたが、マウントバッテン大佐を含む279名が救助されました。しかし、「ケリー」の副長など、救助活動中に命を落とした者もいました。「キプリング」は、燃料不足に陥りながらも、生存者を乗せてアレキサンドリアへと帰投を果たしました。

「ケリー」の喪失は、生存者に大きな衝撃を与えましたが、マウントバッテン大佐は彼らを慰め、その悲しみを分かち合いました。

その他

ノエル・カワードとジョン・ミルズによる1942年の映画『軍旗の下に』は、「ケリー」の戦歴を基にした物語です。

「HMS Kelly Association」は、元乗員のための会合や記念行事を主催しており、チャールズ3世やジョン・ミルズが著名な支援者として名を連ねています。

「ケリー」は、マウントバッテン大佐が考案したマウントバッテンピンクに塗装されていたという説もあります。このピンク色の塗装は、薄暮や夜明け時の赤い光に溶け込むことを狙った迷彩塗装でした。

「ケリー」は、1940年後半から1941年初め頃にかけて、他部隊の同型艦よりも優先的に新型装備が追加されました。これは、マウントバッテン大佐がそのコネクションを最大限に活用したためでした。

「ケリー」と姉妹艦「ジャーヴィス」の艦長居住区は、他の駆逐艦よりも広く、豪華な調度品が備えられていました。これは、マウントバッテン大佐がどちらの艦に勤務するか決まっていなかったためでした。

「ケリー」は、その生涯で実質的な戦果は多くはなかったものの、大衆の間での知名度は高く、いくつかの書籍が出版されています。

栄典

「ケリー」は生涯で4個の戦闘名誉章を受章しました。

Atlantic（1939）
Norway（1940）
Mediterranean（1941）
Crete（1941）

関連項目

第二次世界大戦中のイギリス海軍の喪失艦一覧
マウントバッテンピンク
ジャーヴィス (J級駆逐艦)
ネイピア (駆逐艦・2代)

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