ジャーヴィス (J級駆逐艦)

HMSジャーヴィス:幸運を呼ぶ駆逐艦の戦歴



概要



HMSジャーヴィス(HMS Jervis, F00/G00)は、イギリス海軍のJ級駆逐艦嚮導艦として、第二次世界大戦で目覚ましい活躍を遂げた艦です。その名は、ナポレオン戦争時代に海軍大臣を務めた初代セント・ヴィンセント伯爵ジョン・ジャーヴィスに由来します。特筆すべきは、軽巡洋艦「オライオン」や駆逐艦「ヌビアン」と共に、13個もの戦闘名誉章を受章した武勲艦であること。また、数々の主要な戦いに参加し、幾度となく損傷を受けながらも、乗員に戦死者を一人も出さなかったことから「ラッキー・ジャーヴィス」の異名で親しまれました。

艦歴



起工から第二次世界大戦勃発まで



ジャーヴィスは、1937年8月26日にタイン河畔のホーソン・レスリー社で起工されました。1938年9月9日に進水し、1939年5月8日に就役しました。第二次世界大戦勃発後は、本国艦隊第7駆逐艦戦隊の旗艦として、ドイツ艦船の捜索や船団護衛に従事しました。

1939年:本国近海での活動



開戦初期、ジャーヴィスは悪天候やドイツ空軍の攻撃に悩まされました。1939年10月には、姉妹艦「ジュピター」と共にドイツ空軍の空襲を受け、燃料不足とボイラー故障に苦しみましたが、荒天の中を「ジュピター」を曳航してスカパ・フローに帰還しました。1940年3月には、スウェーデン船との衝突事故により修理を余儀なくされました。

1940年1942年地中海での激戦



1940年5月、ジャーヴィスは地中海艦隊第14駆逐艦戦隊の旗艦となり、地中海での戦いに身を投じます。沿岸掃討、陸軍支援砲撃、船団護衛など、多岐にわたる任務をこなし、タラント空襲やコンパス作戦にも参加しました。

1941年、ジャーヴィスはマタパン岬沖海戦でイタリア海軍重巡洋艦を撃沈。また、タリゴ船団の戦いでは、イタリアの輸送船団を壊滅させるなど、目覚ましい活躍を見せました。クレタ島の戦いでは、多くの艦が失われる中、無事に切り抜け、連合軍の撤退を支援しました。シリア・レバノン戦役では、ヴィシー政権側の艦艇を警戒しました。11月には、イタリアの船団攻撃に向かう戦艦を護衛中、ドイツ潜水艦の雷撃で戦艦「バーラム」が沈没する悲劇に見舞われました。また、同月、給油中にイタリア海軍の人間魚雷の攻撃を受け大破しましたが、死傷者は出ませんでした。

1942年5月、ジャーヴィスはベンガジへの敵船団攻撃作戦中に、僚艦が相次いで撃沈されるという危機に瀕しますが、唯一生き残り、多数の生存者を救助しました。その後も、マルタ島への輸送作戦や、ドイツ潜水艦との戦闘、トブルクへの艦砲射撃などに参加しました。

1943年地中海での活動継続



1943年に入ると、ジャーヴィスは敵潜水艦の撃破や、チュニジアからの撤退阻止作戦に参加。ギリシャ海軍の駆逐艦と共にイタリアの船団を全滅させるなどの戦果を上げました。また、国王ジョージ6世の御召艦の護衛も務めました。その後も、シチリア島、カラブリア、サレルノへの上陸作戦を支援し、触雷沈没した「アブディール」の救援活動や、空襲で大破した「ウォースパイト」の護衛にもあたりました。

1944年:本国近海での活動



1944年、ジャーヴィスはアドリア海やイタリア西部の砲撃作戦に参加。アンツィオの戦いでは、ドイツ空軍の攻撃で艦首を切断するという大損害を被りましたが、幸運にも死傷者はゼロでした。修理後、ジャーヴィスはノルマンディー上陸作戦に参加し、支援砲撃を実施。音響機雷や味方艦との衝突事故に見舞われながらも、大きな損傷はなく任務を遂行しました。その後、チャンネル諸島の砲撃作戦に参加した後、長期修理に入りました。

1945年と戦後:地中海での警備任務



1945年5月に再就役したジャーヴィスは、地中海での警備任務に就きました。ドイツの降伏後、Uボートの乗員を引き渡す任務も担当しました。その後、移民船の取締りなどの任務に従事し、1946年5月19日にイギリスへ帰還。予備役となり、係留練習艦として使用された後、1947年10月に廃棄リストに掲載され、1949年にスクラップとして売却されました。

ラッキー・ジャーヴィス



ジャーヴィスは、その数奇な運命から「ラッキー・ジャーヴィス」と呼ばれました。数々の危険な局面を生き抜き、5年半もの間、乗員に戦死者を一人も出さなかったという事実は、まさに幸運の象徴と言えるでしょう。特に、アンツィオの戦いでの大破からの生還は、ジャーヴィスの幸運を語る上で欠かせないエピソードです。

栄典



ジャーヴィスは、その戦歴を讃えられ、13個もの戦闘名誉章を受章しました。この記録は、戦艦「ウォースパイト」に次ぐものであり、軽巡洋艦「オライオン」、駆逐艦「ヌビアン」と並び、その武勲が顕彰されています。

関連事項



ケリー (駆逐艦): K級駆逐艦嚮導艦
ネイピア (駆逐艦・2代): N級駆逐艦嚮導艦
ターター (駆逐艦・2代)
ノーマン・ウィルキンソン: ダズル迷彩を考案したイギリスの画家。ジャーヴィスに乗艦し、油絵を描いた。

参考資料



ロジャー・ヒル(著), [雨倉孝之] 「死闘の駆逐艦」(1991) 朝日ソノラマ刊
Colledge, J. J.; Warlow, Ben (2006). Ships of the Royal Navy: The Complete Record of all Fighting Ships of the Royal Navy (Rev. ed.). London: Chatham Publishing.
Connellh, G.G. (1987). Mediterranean Maelstrom: HMS Jervis and the 14th Flotilla. London: William Kimber & Co Ltd.
English, John (2001). Afridi to Nizam: British Fleet Destroyers 1937–43. Gravesend, Kent: World Ship Society.
Friedman, Norman (2006). British Destroyers & Frigates: The Second World War and After. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press.
Hodges, Peter; Friedman, Norman (1979). Destroyer Weapons of World War 2. Greenwich: Conway Maritime Press.
Langtree, Charles (2002). The Kelly's: British J, K, and N Class Destroyers of World War II. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press.
Lenton, H. T. (1998). British & Empire Warships of the Second World War. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press.
March, Edgar J. (1966). British Destroyers: A History of Development, 1892–1953; Drawn by Admiralty Permission From Official Records & Returns, Ships' Covers & Building Plans. London: Seeley Service.
Rohwer, Jürgen (2005). Chronology of the War at Sea 1939–1945: The Naval History of World War Two (Third Revised ed.). Annapolis, Maryland: Naval Institute Press.
Warlow, Ben (2004). Battle Honours of the Royal Navy. Cornwall: Maritime Books.
Whitley, M. J. (1988). Destroyers of World War Two: An International Encyclopedia. Annapolis, Maryland: Naval Institute Press.

外部リンク



HMS Jervis on naval-history.net
HMS Jervis at uboat.net

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