Sボート

Sボート：ドイツ海軍の高速戦闘艇

第二次世界大戦において、ドイツ海軍は数々の艦艇を運用しましたが、その中でもSボート、もしくはドイツ語で「Schnellboot（シュネルボート）」と呼ばれる高速戦闘艇は、重要な役割を担いました。イギリスでは「Eボート」と呼ばれ、これは「敵」を意味する「Enemy」に由来すると言われますが、「Eilboot（アイルボート）」、つまりドイツ語で「急速艇」を意味する語の可能性も示唆されています。

Sボートの特徴

Sボートは、その名の通り、非常に高速な艦艇でした。40ノット以上の速度で航行でき、木製船体だったため磁気機雷原を回避できるという特徴を持っていました。約700海里という航続距離は、アメリカ海軍のPTボートやイギリス海軍のMTBを大きく上回り、広範囲にわたる作戦行動を可能としていました。この長距離航続能力と高速性を活かし、通商破壊などで多大なる戦果を挙げ、Uボートに次ぐ活躍をしたと言われています。

現代のドイツでは、魚雷艇やミサイル艇を含む高速戦闘艇全般をSchnellbootと呼びます。区別する必要がある場合は、魚雷艇をTorpedoschnellboot、ミサイル艇をFlugkörperschnellbootと呼称します。艦対艦ミサイルと魚雷の両方を搭載する艇は、Torpedo-Flugkörperschnellbootと呼ばれることもあります。

開発の歴史

ヴェルサイユ条約による軍備制限下、ドイツは小型警備艇の建造に制限を受けませんでした。Sボートの起源は、1927年に造船会社リュールセンが裕福な投資家オットー・カーン向けに建造したモーターヨット「オヘカII」に遡ります。北海や英仏海峡での運用を想定し、荒波にも耐えうる丸底船体が採用されました。リュールセン社は船体の欠点を克服し、高速で堅牢、航洋性に優れた艇を完成させました。ドイツ海軍はこの艇の性能に注目し、1929年には魚雷発射管を装備した類似艇S-1型を発注。これが全てのSボートの基礎となりました。

S-1型の試験後、設計改良が行われました。主舵両側の小型舵は高速時の「リュールセン効果」を生み出し、推進器効率の向上、艦尾波の減少、船体の水平維持に貢献しました。高速航行と低視認性という、Sボートの重要な特徴がここで確立されたのです。

ドイツ海軍での運用

Sボートは、バルト海や英仏海峡での哨戒、イギリスへの海上輸送路攻撃などに用いられました。イギリス海軍やカナダ海軍の高速艇、駆逐艦などとの戦闘も経験しています。ノルマンディー上陸作戦直前にはイギリス南部で行われたタイガー演習を襲撃し、アメリカ海軍の戦車揚陸艦を撃沈する戦果も上げています。一部は地中海や黒海にも展開されました。また、補助巡洋艦の艦載艇として運用された小型Sボートもありました。

Sボート乗員は、功績や戦闘参加回数に応じて「高速魚雷艇戦闘章」を授与されました。この記章は、Sボートの戦功と乗員の勇気を象徴するものです。オーバーロード作戦（ノルマンディー上陸作戦）では、Sボート第9戦隊が最初に侵攻艦隊と交戦しました。

大戦中のSボートの戦果は凄まじく、101隻の商船（総トン数214,728トン）を撃沈、さらに多数の軍艦を撃沈または損傷させました。機雷敷設による被害も甚大でした。これらの功績から、多くの乗員が騎士鉄十字章やドイツ十字章金章を受章しています。

その他の国々での運用

イタリア海軍は、Sボートを参考にMSボートを建造しました。MSボートは、イギリス軍巡洋艦「マンチェスター」を撃沈するなど、大きな戦果を挙げました。スペイン海軍もスペイン内戦と第二次世界大戦中にSボートを運用しました。中国国民党海軍も少数のSボートを保有していましたが、その多くは日本軍や内戦で失われました。

戦後のSボート

終戦時、多くのSボートがイギリスに接収されました。イギリス海軍は、一部のSボートを秘密作戦「ジャングル作戦」に利用しました。これは、MI6とCIA、ゲーレン機関による共同作戦で、ソ連支配下の東欧への工作員潜入を目的としていました。作戦では、Sボートの優れた性能が活用されました。

デンマークとノルウェー海軍も、戦後、ドイツ海軍からSボートを受け継ぎ、運用しました。

現存するSボート

現在、唯一現存が確認されているSボートは「S-130」です。この艇は、購入・修復され、イギリスのコーンウォールで保存・修復作業が続けられています。S-130は、タイガー演習襲撃やノルマンディー上陸作戦への攻撃など、多くの作戦に参加した歴史的な艦艇です。

各型式

Sボートには、S-1型からS-100型、そしてタイプ700など、様々な型式が存在しました。それぞれの型式で、船体サイズ、エンジン出力、兵装などが異なっていました。初期のガソリンエンジン搭載型から、高性能ディーゼルエンジン搭載型へと進化していきました。また、船体構造や対空兵装も改良が加えられ、戦争が進むにつれてより洗練されたものになっていきました。

まとめ

Sボートは、その優れた性能と勇敢な乗員によって、第二次世界大戦において大きな影響を与えました。その歴史と技術的特徴は、海軍史において重要な位置を占めています。現存するS-130の修復作業が完了する日が待ち遠しいです。

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