ケヴィン・エアーズ

1944年 8月16日にイングランド、ケント州ハーン・ベイに生まれたケヴィン・エアーズは、英国の音楽シーン、特に初期サイケデリック・ムーブメントや、後にカンタベリー・ミュージックと呼ばれるムーヴメントにおいて、中心的な役割を担った作曲家であり、シンガーでした。彼の生涯は、音楽的な探求と、異国情緒漂う放浪の旅によって彩られています。

幼少期、6歳から12歳までを家族と共にマレーシアで過ごした経験は、彼の感性に大きな影響を与えました。英国に帰国後、ハイスクールに進学しますが、16歳で学校を去り、自由な旅に出ます。スペインのイビサ島やマヨルカ島、モロッコなどを転々としながら過ごしたこの時期は、後に彼の音楽に反映される、国籍にとらわれない独特のニュアンスを育んだと言われています。

18歳の頃、ロンドンを離れ、カンタベリーに移り住んだエアーズは、ロバート・ワイアットの母親が経営する下宿屋「ウェリントン・ハウス」に身を寄せます。ここで彼は、同じように新しい音楽を志すワイアットやマイク・ラトリッジらと出会い、互いの才能に触発されます。この出会いがきっかけとなり、1964年には彼らと共にバンド「ワイルド・フラワーズ」を結成します。

1966年、ワイルド・フラワーズを母体として、エアーズ、ワイアット、ラトリッジにデヴィッド・アレンが加わり、「ソフト・マシーン」が誕生します。エアーズはベーシスト兼ボーカリストとしてこの革新的なバンドを牽引し、彼らはロンドンを拠点に、当時のサイケデリック・シーンで大きな注目を集めます。彼らのデビューアルバムは、その後のロック史に大きな足跡を残しました。

しかし、1968年に行われたザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスとのアメリカツアーは、エアーズにとって心身ともに過酷なものでした。このツアーで疲弊しきった彼は、同年12月にソフト・マシーンを脱退。愛用のベースをジミ・ヘンドリックスのドラマーであったミッチ・ミッチェルに託すと、ガールフレンドと共に再びイビサ島へと渡り、静かな生活を選びます。

イビサ島での隠遁生活の中で、エアーズは自身のペースを取り戻し、よりシンプルでパーソナルなソングライティングの才能を開花させます。1969年には、アルバム『おもちゃの歓び』でソロアーティストとしてのキャリアをスタート。以降、「ザ・ホール・ワールド」という自身のバックバンド（一時期マイク・オールドフィールドも在籍）や、ソロ名義で精力的に作品を発表し続け、個性的なバリトンボイスと、ユニークな詞世界で一部に熱狂的なファン層を築きました。アンディ・サマーズ（後にポリス）、そして彼の音楽的片腕として長年活動を共にしたギタリストのオリー・ハルソールとの協力関係も、彼のソロワークにおいて特筆すべき点です。

1974年6月1日には、ロンドンのレインボウ・シアターで、ブライアン・イーノ、ジョン・ケイル、ニコといった盟友たちと共に歴史的なコンサートを開催。この模様はライブアルバム『悪魔の申し子たち〜その歴史的集会より』としてリリースされ、ロバート・ワイアットやマイク・オールドフィールドなどのゲスト参加も話題となりました。

1990年代中頃にイビサ島から英国に戻った後、エアーズはフランス南部に移り住み、そこで穏やかな晩年を過ごしました。彼の最後のスタジオ作品は、2007年に発表されたアルバム『アンフェアグラウンド』です。

2013年 2月18日、彼はフランスの自宅で、68年の生涯を閉じました。伝えられるところによれば、その枕元には「燃えないと、輝くことはできない」という言葉が記されたメモが置かれていたといいます。それは、彼の生き方そのものを表すかのようでした。

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