ケーユクス

ケーユクス（Κήϋξ）

ギリシア神話において、ケーユクスという名前を持つ人物は複数知られていますが、特に以下の二人が有名です。

明けの明星ヘオースポロスの子

明けの明星として知られる神、ヘオースポロスの子であるケーユクスは、ダイダリオーンという兄弟がいます。彼はアルキュオネーという女性と結婚し、二人は深く愛し合い、極めて幸福な日々を送っていました。彼らの愛情の深さは、時に自らをオリュンポスの最高神であるゼウスと、その妃であるヘーラーになぞらえて呼び合うほどであったと伝えられています。しかし、アポロドーロスなどの記述によれば、このような人間の傲慢な振る舞いは神々の逆鱗に触れることとなりました。

神々の怒りを買ったケーユクスは、船旅に出た際に悲劇に見舞われます。嵐の中、ゼウスが放った恐るべき雷霆によって彼の船は打ち砕かれ、ケーユクスは海の藻屑と消えました。一方、トラーキースで夫の帰りを待つアルキュオネーは、彼の死を知る由もありませんでした。しかし、夫の死を知らずにひたすら待ち続ける妻を哀れに思ったか、あるいは夫の魂が妻を想ったか、ケーユクスの亡霊がアルキュオネーの枕元に現れます。亡霊となったケーユクスは、自らが辿った悲惨な最期を妻に告げました。

夫の死を知ったアルキュオネーは、深い悲しみに打ちひしがれ、その絶望から夫の後を追うように海に身を投じました。この夫婦の悲劇的な結末を目の当たりにしたオリュンポスの神々は、彼らを哀れに思い、二人を鳥へと姿を変えたとされています。この鳥は、カイツブリ、あるいは冬の到来を告げるカワセミ（アルキュオネー鳥、Kingfisher）であるとする伝承が一般的です。冬至の前後には、アルキュオネーが海に巣を作るために波が穏やかになるという伝説があり、これを「アルキュオネーの日々」（Halcyon Days）と呼びます。

トラーキースの王

もう一人のケーユクスは、テッサリアー地方の南部に位置するトラーキースを統治していた王です。彼は有名な英雄ヘーラクレースの継父にあたり、その父であるアムピトリュオーンの甥という血縁関係も持っていました。このケーユクス王は、ヘーラクレースとは非常に親しい間柄でした。

ヘーラクレースがミュケーナイ王エウリュステウスから課せられた難業を遂行し、あるいは追われる中で、ケーユクス王はしばしば彼を自国のトラーキースに匿い、援助を与えたと伝えられています。彼はヘーラクレースの強力な支援者であり、友であったと言えます。しかし、ケーユクス自身もまた悲劇に直面します。彼の息子であるヒッパソスは、ヘーラクレースがオイカーリア王エウリュトスに対して起こした戦いに加わりましたが、この戦いの中で命を落としてしまいました。このように、ケーユクス王は個人的な悲しみを経験しながらも、ヘーラクレースとの関係を維持しました。

また、ケーユクス王にはテミストノエーという娘がいました。彼女は後にキュクノスという名の人物と結婚したと記録されています。このトラーキースのケーユクス王は、ヘーラクレースの物語と深く結びついた人物として、神話の中にその名が残っています。

参考文献として、これらの情報は主に古代ギリシアの文献、特にアポロドーロスによる『ギリシア神話』などに記されています。

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