ゲンゲ科

ゲンゲ科（Zoarcidae）

ゲンゲ科は、スズキ目ゲンゲ亜目に属する魚類の分類群で、少なくとも46属230種が確認されています。主に北半球の寒冷な海域に生息する深海魚として知られています。

分布と生態

ゲンゲ科の魚は、熱帯から極圏まで、世界中の海に広く分布しています。特に、北太平洋や北大西洋の冷たい海に多く見られ、北極海や南極海とその周辺海域にもそれぞれ固有の種類が生息しています。ほとんどの種類は海底近くで生活する底生魚で、沿岸の浅瀬から数千メートルの深海まで、幅広い深度に分布しています。

深海においては、ゲンゲ科はソコダラ科、アシロ科、トカゲギス科、ホラアナゴ科などと並び、重要な底生魚グループとなっています。北大西洋の深海性底生魚の種数において、ゲンゲ科は約9%を占めると推定されています。北半球の温帯域から北極にかけての深海底では、個体数が非常に多く、餌が豊富な場所では高密度な群れを形成することもあります。

ゲンゲの仲間は、多くがヘビのように海底に横たわり、砂泥に潜む貝類や多毛類などを主な餌としています。大型の種類は、棘皮動物や他の魚類も捕食します。底質に埋まった餌を食べる際には、大量の堆積物を一緒に摂取しますが、肥大した唇を使って餌を選り分けて、堆積物をそのまま飲み込むことはありません。深海魚としては比較的発達した視覚を持っていますが、底に埋まった餌を探す際には、鋭敏な触覚を主に利用すると考えられています。

コンニャクハダカゲンゲ属など、一部のグループは食性や生態が特殊です。彼らはゼラチン質の柔らかい体を持ち、他のゲンゲ類とは異なり、海底近くから中層を漂流しています。海底に沈んだ大型生物の死骸の臭いを嗅ぎつけ、腐肉食性の節足動物を捕食します。

繁殖様式は基本的に卵生ですが、ナガガジ属の3種のみ卵胎生です。一部の種類では、親魚が卵を保護する習性があります。

形態

ゲンゲ科の魚は、一般的にウナギのように細長い体型をしています。体長は数十センチメートルのものが多く、最大種であるMacrozoarces americanusは1.1メートルに達します。口は吻の先端、またはやや下向きについています。鱗は非常に小さく皮膚に埋もれており、ハダカゲンゲ属など一部の種類は鱗を欠いています。鰓膜は峡部で接続しています。浮き袋はありません。

背鰭と臀鰭の基底は非常に長く、尾鰭と連続しています。腹鰭は小さく、胸鰭よりも前の咽頭部に位置するか、または持たない種類もいます。腹鰭の退化は、それぞれの属で独立に生じたと考えられています。Derepodichthys属の腹鰭は海綿状で、眼の真下に位置します。胸鰭は発達しており、海底で体を支え静止する生活に適応しています。椎骨数は58-150個です。

分類

ゲンゲ科には、Nelson（2006）の分類体系では46属230種が認められていますが、FishBaseには52属282種が記載されています。かつてゲンゲ科に分類されていたLeucobrotula属とParabrotula属は、現在では独立のニセイタチウオ科とされ、アシロ目に分類されています。

1960年代前半まで、ゲンゲ科はスズキ目ギンポ亜目に含まれることが一般的でした。1966年にGreenwoodらは、ゲンゲ科のみを含む「ゲンゲ亜目」としてタラ目の内部に位置付けましたが、後にメダマウオ科と近縁であることが指摘され、Nelson（1984）以降はスズキ目ゲンゲ亜目の一部として扱われるようになっています。

ゲンゲ科の内部には、セダカゲンゲ亜科、ナガガジ亜科、ハダカゲンゲ亜科、マユガジ亜科の4亜科を設ける分類体系も存在します。

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