ココチュ (コンゴタン部)

ココチュ（テブ・テングリ）とは

ココチュ（生没年不詳）は、モンゴル帝国初期にチンギス・カンに仕えたシャーマンです。コンゴタン氏出身で、シャーマンの家系に生まれました。「テブ・テングリ（天つ神巫）」の称号でも知られています。

人物

ココチュは、父モンリク・エチゲを通じてテムジン（後のチンギス・カン）に仕えました。彼は予言や神託によってテムジンの信頼を得て、その権威を高めることに貢献しました。『集史』には、彼が未来を予言したり、真冬に川で裸で座り、その体温で氷を溶かしたという逸話が残されています。

ココチュは「神は汝が世界の帝王になるだろうと仰っている」と語り、また「チンギス・カン」という称号を創案したと伝えられています。これらの功績により、彼はチンギス・カンから絶大な信頼を得て、一族共々、モンゴル帝国において大きな権勢を誇るようになりました。

増長と粛清

しかし、ココチュの権勢は次第に増長し、チンギス・カンの弟であるジョチ・カサルを打ち据えるなどの事件を起こします。また、テムゲ・オッチギンの部民を奪うなど、その専横ぶりは目に余るものがありました。

『元朝秘史』によれば、ココチュはオッチギンに屈辱を与えたことがきっかけで、チンギス・カンの怒りを買い、粛清されることになります。オッチギンは、ココチュがチンギス・カンの下へ向かうところを待ち伏せし、力士を使って背骨を折って殺害しました。

『集史』では、ココチュがジョチ・カサルによって殺害されたと記されており、『元朝秘史』とは記述に食い違いがあります。これは、『元朝秘史』がチンギス・カンの関与を薄める意図があったためだと考えられています。

子孫

ココチュの息子であるキプチャクは、アリクブケの末子メリク・テムルの下で右翼万人隊長を務めました。また、メリク・テムル・ウルスには、キプチャク以外にもコンゴタン氏出身の将軍が多数所属していました。これは、メリク・テムルがチンギス・カンの末裔として祖先祭祀を行う役割を担っていたためだと推測されています。

コンゴタン氏モンリク家

モンリク・エチゲ（Mönglik Ečige）
ココチュ＝テブ・テングリ（Kököčü）
キプチャク（Qibčaq）
トルン・チェルビ（Tulun Čerbi）
バイバク（Baibaq）
バラク（Baraq）
アドゥーチ（Adūči）
ブラルキ（Buralqi）
スイケトゥ・チェルビ（Süyiketü Čerbi）
スト・ノヤン（Sutu noyan）
ダイル（Dayir）
ハラカト・ノヤン（Halaqato noyan）

ココチュは、モンゴル帝国初期において、宗教的な権威を背景に大きな影響力を持った人物でした。彼の生涯は、モンゴル帝国の成立期における権力闘争と宗教的役割の複雑さを物語っています。

参考文献
宇野伸浩「チンギス・カン前半生研究のための『元朝秘史』と『集史』の比較考察」『人間環境学研究』7号、2009年
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
白石典之『元朝秘史―チンギス・カンの一級史料』中央公論新社〈中公新書2804〉、2024年5月25日。ISBN 978-4-12-102804-4。
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
松田孝一「メリク・テムルとその勢力」『内陸アジア史研究』第4号、1988年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
* 村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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