ミナミコメツキガニ

ミナミコメツキガニ (南米搗蟹)

ミナミコメツキガニは、エビ目（十脚目）ミナミコメツキガニ科に属する小型のカニです。東南アジアの熱帯域に広がる干潟を主な生息地としており、その姿や生態はコメツキガニによく似ています。しかし、分類学上は科のレベルで異なり、コメツキガニはスナガニ科に分類されています。別名として、ミナミノコメツキガニとも呼ばれます。

分布

ミナミコメツキガニは、種子島以南の南西諸島から台湾、香港、フィリピンにかけて広く分布しています。特に琉球列島に生息するものは、2010年に新種として同定され、琉球列島固有種であることが確認されました。

形態

甲幅は10mm程度で、生時には甲羅が青灰色をしています。複眼はやや尖った球形をしており、甲羅の中央には浅いU字型の溝が見られます。複眼の大きさはコメツキガニほど大きくありません。口は甲羅に比べて大きく、半球形の顎脚が大顎を覆っています。鋏脚は左右同じ大きさで、ハサミの部分は細長く二又のフォークのような形状をしており、砂をすくうのに適した構造をしています。脚は細長く、甲幅よりも長いです。

生息環境・生態

ミナミコメツキガニは、河口域に広がる柔らかい干潟やマングローブの海側の泥地に多く生息しています。潮が引いた干潟では、大きな群れを形成し、脚で体を持ち上げたような独特の高い姿勢でゾロゾロと歩き回ります。カニは一般的に横歩きをするものが多いですが、ミナミコメツキガニは前に歩くのが特徴です。この集団で前に歩く様子が軍隊の隊列に似ていることから、英語では「Soldier crab」という英名で呼ばれています。コメツキガニとは異なり、巣穴は作りません。

餌は砂泥中のデトリタスやプランクトンで、歩きながら鋏脚で砂泥をつまんで口に運びます。砂泥中の餌をこしとって食べ、残った砂を球状にして足元に捨てる動作を繰り返します。

天敵としては、サギ、シギ、チドリなどの鳥類や、フエダイ、オオウナギなどの魚類、アシハラガニやベニツケガニなどの大型のカニが挙げられます。巣穴を持たないミナミコメツキガニは、敵が来ると一瞬で足元の砂泥に潜り込むことで身を守ります。この潜る動作は、脚で砂泥をかきながら、自分の体をねじのように回転させ、素早く砂泥の中にねじ込むという一連の行動によるものです。潮が満ちた際も同様に砂泥の中に潜り、次の潮が引くまで砂泥の中で過ごします。

食材として

日本では、ミナミコメツキガニを食材として利用することは一般的ではありません。また、実際に食べた場合には、味覚の一時的な異常が起きる可能性があることが知られています。

参考文献

「原色日本大型甲殻類図鑑 II」三宅貞祥 保育社 ISBN 4-586-30063-9
「学生版 日本動物図鑑」内田亨監修 北隆館 ISBN 4-8326-0042-7

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