コリントの包囲

『コリントの包囲』（フランス語: Le Siège de Corinthe）は、ジョアキーノ・ロッシーニが作曲した3幕からなるフランス語のオペラであり、叙情悲劇として1826年に初演されました。この作品は、1820年に発表されたロッシーニ自身のイタリア語オペラ『マオメット2世』を改作したもので、舞台をネグロポンテからコリントへ移し、登場人物の名前も変更されています。

概要

1824年、ロッシーニはパリのイタリア座の監督に就任しました。彼はまず『ランスへの旅』（1825年）を上演しましたが、イタリア座だけにとどまらず、さらにオペラ座へと進出しました。その最初の新作オペラが、この『コリントの包囲』です。台本は、『マオメット2世』のものを基に、ルイジ・バロッキとアレクサンドル・スーメによって書き直されました。

当時のフランスは、ギリシア独立戦争に対する熱狂的な支持に沸いていました。1826年には、オスマン帝国がミソロンギを包囲し、その残虐さが非難されていました（なお、1824年にミソロンギで亡くなったバイロンにも、同名の『コリントの包囲』（1816年）という詩がありますが、これは18世紀のオスマン帝国によるペロポネソス半島再征服を舞台としており、ロッシーニの作品とは直接的な関係はありません）。

『コリントの包囲』は、1826年10月9日にパリのオペラ座で初演され、高い評価を受けました。オペラ座での上演記録は105回を数えます。また、カリスト・バッシによるイタリア語版（L'assedio di Corinto）も制作され、イタリア各地で上演されました。その結果、原作である『マオメット2世』は次第に忘れ去られていくことになりました。

マオメット2世との違い

『マオメット2世』は、15世紀のオスマン帝国によるヴェネツィア領ネグロポンテの包囲を舞台としていますが、『コリントの包囲』は、同じくメフメト2世によるモレアス専制公領のコリント包囲（1458年）を舞台としています。メフメト2世以外の登場人物の名前は変更され、男性主役は女声から男声のテノールに変更されています。

物語の大筋は変わっていませんが、『マオメット2世』ではヒロインの自殺が最後のクライマックスであったのに対し、『コリントの包囲』ではコリントが全滅・炎上するという、より衝撃的な結末を迎えます。

音楽もほとんどが『マオメット2世』からの転用ですが、特に後半部分にはかなりの手が加えられています。第3幕で、最後の戦いの前にイエロスがギリシアの旗を祝福する場面(Quel nuage sanglant)は、新たに書き下ろされました。また、第3幕の最後近くでパミラがハープの伴奏に合わせて祈る場面(Juste ciel)は、『マオメット2世』第1幕のアンナの祈りの場面(Giusto ciel)を移してきたものですが、より印象的な効果を生み出しています。

『マオメット2世』が不成功に終わったのに対し、『コリントの包囲』は成功を収めましたが、音楽的な完成度においては、必ずしも後者が優れているとは言えません。『マオメット2世』の音楽が緊密な構成を特徴とするのに対し、『コリントの包囲』はより単純化された構成となっています。

20世紀以降のリバイバル

1949年には、フィレンツェでイタリア語版が復活上演され、レナータ・テバルディがパミラを演じました。1969年には、ロッシーニ没後100年を記念して、ミラノのスカラ座でイタリア語版が上演され、ビヴァリー・シルズがパミラを演じました。1980年代には、ピッツィ演出によるフランス語版が復活上演されています。

登場人物

クレオメーヌ（テノール）- コリントの総督
パミラ（ソプラノ）- クレオメーヌの娘
ネオクレス（テノール）- コリントの若い将校
マオメ2世（バス）- トルコのスルターン
オマル（バス）- マオメ2世の腹心
アドラスト（テノール）- クレオメーヌの腹心
イエロス（バス）- コリントの墓守
イスメーヌ（メゾソプラノ）- パミラの親友

あらすじ

序曲は、既存のいくつかの作品を組み合わせて作られています。冒頭は『ビアンカとファッリエロ』（1819年）と同じであり、次の遅い部分は、マイールのオラトリオ『アタリア』（ロッシーニは1822年にナポリでこの曲を指揮しています）から引用されています。主部でクレッシェンドしてくる旋律は、『グローリア・ミサ』（1820年）からの転用です。この旋律は、第2幕の終わり近くでもギリシア軍の合唱として聞こえてきて、パミラが愛を断ち切る重要なきっかけとなります。

第1幕

コリント総督のクレオメーヌは、一同にトルコと戦うべきか降伏すべきかを問います。若いネオクレスが戦いを主張し、一同は戦いに備えます。クレオメーヌは娘のパミラをネオクレスと結婚させようとしていましたが、パミラ本人はかつてアテネで会ったアルマンゾルという男性に恋していました。しかし、その正体はギリシアの様子を探るために密かにやってきたマオメ2世その人でした。戦いに先立ち、クレオメーヌはパミラに万一の場合に自殺するための短剣を渡します。

戦いはトルコ側の勝利に終わり、クレオメーヌは捕虜となります。父を助けるためにやってきたパミラをそれと認めたマオメは、自分と彼女との結婚を条件としてギリシアを許そうと提案します。

第2幕

マオメの天幕で、パミラは祖国への忠誠と愛の間で引き裂かれて苦しみ、母の霊が自分を見守るように祈ります。結婚式のバレエが踊られる中、捕虜にされたネオクレスが連れてこられます。パミラは彼を助けるために、ネオクレスが自分の兄弟だと嘘をつきます。マオメはネオクレスを結婚式に招待し、パミラに対して愛の歌を歌います。

しかし、ギリシア人たちが決死の戦いをしようとしていることを知ったパミラは、愛を捨てて祖国のために死ぬことを選びます。怒ったマオメは、翌日の日の出以前にコリントを滅ぼすことを宣言します。

第3幕

コリントの民は、墓地を最後の砦として選びます。そこへトルコから逃げてきたネオクレスがやってきます。パミラも逃亡し、遠くで女たちと祈っています。クレオメーヌはまだ娘のことを怒っていますが、そこへやってきたパミラは母の墓前でネオクレスと結婚しようとします。クレオメーヌは2人を祝福し、ギリシア人の苦難が終わることを祈らせます。イエロスは最後の時が近づいていることを告げ、ギリシアの軍旗を祝福します。パミラは神の慈悲が悲しみを終わらせることを祈ります。

トルコ人たちが攻め込んできますが、パミラは短剣で自害します。墓室が崩れ、炎に包まれたコリントが出現します。

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