モレアス専制公領

モレアス専制公領：東ローマ帝国末期のペロポニソス半島

モレアス専制公領（Δεσποτάτο του Μορέως）は、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）のパレオロゴス王朝時代に、現在のギリシア南部、ペロポニソス半島に設置された地方行政単位です。行政の中心都市であったミストラスから、ミストラス専制公領とも呼ばれます。

名称と概要

「モレアス専制公領」は、後世の研究者による呼称であり、当時の正式名称は不明です。記録には「ペロポニソス半島」または「ペロプスの半島」という地理的な名称が残っています。

「モレアス」という言葉は、13世紀以降に半島の形状が桑の葉に似ていることから生まれたギリシア口語表現です。十字軍の兵士たちがこの言葉を聞き間違えて「モレア」という名称が西欧に広まり、それが日本語文献にも取り入れられました。ミストラスについても同様の経緯があります。

専制公領の特徴は、専制公（皇帝の親族）が行政・軍事・司法の全権を握って統治を行う点にあります。専制公の地位は終身制ですが、世襲ではありませんでした。

歴史

専制公領成立以前

ペロポニソス半島は、ローマ帝国の東西分裂後、東ローマ帝国の一部となりました。6世紀にはスラヴ人の侵入を受けますが、10世紀までにギリシア系住民が支配を回復し、セマ・ペロポニソスという行政区分が成立しました。

しかし、帝国の統制は弱く、大土地所有者が勢力を持つようになります。12世紀には、レオン・スグロスのような半独立の君主も現れました。

1204年の第4回十字軍により東ローマ帝国が一時的に解体されると、ペロポニソス半島はフランスの騎士ギヨーム1世・ド・シャンリットとジョフロワ1世・ド・ヴィルアルドゥアンに与えられ、彼らはアカイア公国を建国しました。

専制公領の成立

1262年、アカイア公国のギヨーム2世・ド・ヴィルアルドゥアンが、東ローマ帝国にミストラスなどの要塞を割譲したことが、モレアス専制公領の始まりです。皇帝は軍政官（ケファリ）を派遣して統治を行わせました。1349年、ヨアニス6世カンダクジノス帝が、次男のマヌイル・カンダクジノスを専制公として派遣し、モレアス専制公領が正式に成立しました。

モレアス専制公領の発展

初代専制公マヌイル・カンダクジノスは、荒廃した半島に秩序をもたらし、ミストラスを都市として発展させました。彼は宮殿を建設し、聖堂の建立を支援し、城壁を新設して市域を拡張しました。

マヌイルの死後、セオドロス1世パレオロゴスが専制公に就任し、内政の整備に努めました。オスマン帝国の脅威にさらされながらも、国力の充実を図りました。

1415年には、マヌイル2世パレオロゴス帝が自らこの地を訪問し、エクサミリオン城塞を建設するなど、専制公領の内政整備に努めました。

統治体制の移行

1428年、専制公領は単独統治から共同統治体制に移行し、コンスタンディノス（後のコンスタンディノス11世パレオロゴス）が就任しました。彼はラテン勢力との戦いを有利に進め、1430年にはアカイア公国の全土を併合し、ペロポニソス半島はほぼ全域が東ローマ帝国の支配下に戻りました。

ミストラスは文化の中心地として発展し、ペリヴレプトス修道院、パンダナサ修道院など多数の聖堂・修道院が建てられました。ゲオルギオス・ゲミストス・プリソンなどの学者が集まり、学芸が発展しました。

モレアス専制公領の発展は、後期東ローマ帝国におけるギリシア的傾向の顕著な発露と考えられています。

コンスタンディノスの治世

1443年、コンスタンディノスは専制公となり、東ローマ帝国復興を目指し、ギリシア本土への侵攻作戦を開始しました。しかし、ヴァルナの戦いで十字軍が敗北すると、この計画は中止されました。1446年、オスマン帝国の侵攻を受け、コンスタンディノスはオスマンに従属することを余儀なくされました。

滅亡

1448年、コンスタンディノスが皇帝に選出されコンスタンティノポリスへ向かいます。後任には弟のディミトリオス・パレオロゴスとソマスが就任し、共同統治体制が取られました。しかし両者は不仲で、宗教的にも対立しました。

1453年のコンスタンティノポリス陥落後、モレアス専制公領は唯一の残存領土となりましたが、発展することはできませんでした。1460年、メフメト2世がミストラスを占領し、モレアス専制公領は滅亡しました。

専制公一覧

マヌイル・カンダクジノス（1349年 - 1380年）
マテオス・カンダクジノス（1380年 - 1383年）
ディミトリオス・カンダクジノス（1383年 - 1384年）
セオドロス1世パレオロゴス（1382年 - 1407年）
セオドロス2世パレオロゴス（1407年 - 1443年）
コンスタンディノス・パレオロゴス（1428年 - 1448年）
ソマス・パレオロゴス（1428年 - 1460年）
ディミトリオス・パレオロゴス（1449年 - 1460年）

もう一度検索