コリーイの乱

コリーイの乱（1768年）

コリーイの乱は、1768年の夏に、当時のポーランド・リトアニア共和国領であった右岸ウクライナで発生した、ハイダマーカと呼ばれる武装勢力による大規模な蜂起です。この出来事は、近世におけるウクライナ・コサックとハイダマーカによる民族解放運動の重要な一環と見なされています。

背景

蜂起の主な原因は、ポーランド政府、カトリック貴族、そしてユダヤ人管理者による、正教徒ウクライナ人に対する社会的、民族的、宗教的な抑圧でした。コリーイの乱は、ハイダマーカによる反乱の中でも最大規模であり、以前の反乱と比較して、より広範な社会基盤、反乱軍の組織的な司令部、そして統一された思想が特徴でした。

1768年、バール連盟の結成により政治的・社会情勢が悪化し、右岸ウクライナに進駐したロシア軍とバール連盟との間で戦闘が拡大しました。この状況下で、ウクライナの正教徒の間には、ロシア帝国がウクライナ人を支援し、ポーランドに対して反乱を起こすことを期待しているという噂が広まりました。さらに、正教会の聖職者たちは、エカチェリーナ2世の名を騙った偽の勅令を流布し、民衆に武装蜂起を呼びかけました。

経過

こうして、ザポロージャ・コサックや下層階級の人々を中心に小規模な反乱軍が組織されました。時が経つにつれて、ウクライナの聖職者、商人、農民が反乱軍に加わり、その規模は拡大していきました。反乱軍の兵士は「ハイダマーカ」または「コリーイ」（「刺殺人」の意味）と呼ばれました。彼らの指揮官はコサックでしたが、反乱軍の主体はウクライナ農民であったため、コリーイの乱は農民戦争と解釈されることもあります。

武装蜂起の準備は、チヒルィーン近郊のモトロナ至聖三者修道院から始まりました。この修道院の典院であるメルキゼデク（ズナチコ=ヤヴィルシキー）は、右岸ウクライナの正教会の指導者であり、蜂起の思想的な指導者であったとされています。マクスィーム・ザリズニャーク率いるザポロージャ・コサックは、修道院の聖職者と秘密裏に会談し、反乱の計画を策定しました。1768年6月6日、小規模な軍隊が修道院から出発し、ジャボティン、スミーラ、チェルカースィ、コールスニ、ボフスラーウなどの都市を次々と制圧しました。反乱軍の成功に伴い、蜂起の支持者は増加の一途をたどりました。

反乱の拡大を恐れたポーランドのバール連盟は、ウーマニの百人隊長イヴァン・ゴーンタ率いる登録コサックを派遣して反乱軍を鎮圧しようとしました。しかし、ゴーンタの部隊は反乱軍に寝返り、6月21日にはザリズニャークと共にウーマニを占拠しました。ウーマニに集まった約1万〜2万人のポーランド貴族、カトリック聖職者、ユダヤ人管理者らは、反乱軍によって虐殺されました。その後、ザリズニャークはヘーチマン（将軍）とスミーラ公爵に、ゴーンタはウーマニ連隊長とウーマニ公爵に選出されました。反乱軍は16の百人隊に分割され、将軍官庁によって管理されるようになりました。1768年後半までに、反乱軍は右岸ウクライナの大部分を支配下に置き、17世紀末にポーランド政府によって廃止されたコサック自治制を復活させました。

鎮圧と影響

しかし、反乱軍による政治的な動きは、ロシア帝国にとっても都合の悪いものでした。同年7月9日、エカチェリーナ2世は反乱を鎮圧するよう宣言し、ミハイル・クレチェトニコフ少将率いるロシア遠征軍を派遣しました。ロシア軍とポーランド軍は協力して、7月中旬に反乱軍の指導者であるザリズニャークとゴーンタを捕らえ、コーダニャ村で300人のウクライナ人反乱者を拷問にかけた後、処刑しました。7月末にはコリーイの乱は鎮圧されましたが、反乱軍の残党は1769年前半まで抵抗を続けました。

コリーイの乱は、近世ウクライナにおける最後の重要な反乱となりました。この反乱は、ポーランド・リトアニア共和国を政治的な危機に陥れました。反乱軍の一部は、オスマン帝国が支配するバルタにも侵攻したため、オスマン帝国はロシア帝国に宣戦布告し、新たな露土戦争が勃発するきっかけとなりました。

コリーイの乱は、ウクライナの政治的、社会的な思想に大きな影響を与えました。19世紀のロマン主義、民族主義の時代には、コリーイの乱はウクライナ民族解放運動の象徴となり、参加者は英雄として称えられました。反乱をモチーフにした文学、美術、民話などが生まれ、右岸ウクライナだけでなく、西ウクライナのガリツィア地方から東ウクライナのクバーニ地方にかけて、ウクライナ民族抵抗運動のエピソードとして語り継がれています。

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