コルシカ島の民族音楽

コルシカ島の民族音楽：地中海の島から響く歌声

フランス領コルシカ島で歌われる民族音楽は、その多様な形態と豊かな歴史で知られています。歌謡が中心を占め、特に多声合唱（ポリフォニー）が特徴的です。ユネスコ無形文化遺産に登録されている「パディエッラ」風の歌謡も、この音楽文化の重要な一部を構成しています。

名称の多様性

コルシカ島の民族音楽を正確に総称することは容易ではありません。現地では「コルシカ島のポリフォニー」や「コルシカン・ポリフォニー」が一般的ですが、これは全ての音楽形態を網羅するものではありません。単声の歌や、楽器のみの演奏なども存在するため、「コルシカ島の音楽」や「コルシカ島の声」といった名称も用いられますが、これらもまた厳密な定義からは外れます。

「ポリフォニー」は多声合唱を意味しますが、コルシカの歌謡全てが多声合唱ではありません。ソロの歌や、複数人が合唱しない形態（モノディ）も存在するため、「ポリフォニー」という名称は必ずしも正確ではありません。しかし、最も広く普及している呼称であることに変わりはなく、ポリフォニーを冠したフェスティバルにもソロ歌手が参加するケースは少なくありません。

「コルシカ島の音楽」という名称は語義的には正確ですが、コルシカの音楽は単なる芸術的行為に還元できるものではありません。島民にとって歌は生活の一部であり、牧羊時代の掛け声にその起源を求める説もあるほど、生活に密着した音楽文化です。「音楽」の定義をどこまで広げるかという議論はありますが、あらゆる歌声を包括的に捉えるならば、この名称も妥当と言えるでしょう。

「コルシカン・ヴォイス」や「コルシカ島の声」といった呼称も存在しますが、フランスやコルシカ島では一般的ではありません。また、楽器伴奏や器楽演奏もコルシカ音楽に含まれるため、「声」のみを強調する呼称は不正確です。「コルシカ島の民族音楽」という名称も、島内やフランスではあまり使われていませんが、音楽民族学の研究では頻繁に取り上げられています。

「パディエッラ」は、コルシカ民族音楽の一形態に過ぎません。

伝統音楽・歌謡

コルシカの伝統音楽は、古くからの島民の掛け声と、11世紀からのピサ共和国統治によって導入された聖歌や賛美歌が融合して生まれたと言われています。1960年代までは盛んでしたが、その後急速に衰退しました。

主な分類は以下の通りです。

カンティ・ボブラーリ（canti populari）： 俗歌・民衆歌
パディエッラ： 即興で歌われる3連6句形式の定型歌。三声合唱で、それぞれの声はウ・ワッス（低音）、ア・ゼグンダ（中音）、ア・デルツァ（高音）と呼ばれます。ユネスコ無形文化遺産に登録されているパディエッラ風の歌謡は、かつて即興で歌われたもののうち、現在まで歌い継がれているものです。
テルツェッティ（terzetti）： パディエッラと同様、即興の定型歌。三声合唱。
ボヂェル（voceru）： 女性が歌う弔歌。
ラメントゥ（lamentu）： 哀歌。男女ともに歌う単声の歌。
クンチュラシュティ（cuntrasti）： 男女が交互に歌う恋歌。
ティヤマ・エー・リスポンディ（chjama è rispondi）： 複数の男性が交互に歌い合う歌のゲーム。
その他： シリナーダ（恋歌）、ナンナ（子守唄）、選挙歌、チュリッビエラ（労働歌）など。

カンティ・ディエザーディ（canti chjesati）： 教会歌・宗教歌
ディオ・ヴィ・サルヴィ・レジナ（Dio vi salvi, Regina）： コルシカ独立戦争時代に国歌として制定された歌。
キリエ（Kyrie Eleison）、サンクトゥス（Sanctus）： ラテン語の宗教歌。

現代音楽

1960年代後半からのコルシカ民族主義の高まりを受け、コルシカ語やその文化表現が見直されました。1970年代以降、若者を中心に、コルシカ語で歌うグループが結成されました。

代表的なグループには、カンタ・ウ・ボーブル・ゴールス、イ・ムブリニ、ティアミ・アディアレージ、ア・ヴィレッタ、スルディアンティなどがあります。当初は伝統的な歌を基調としていましたが、徐々にオリジナル作品や楽器を取り入れた音楽へと発展していきました。

1980年代にはワールドミュージックブームを追い風に、コルシカの音楽は世界的に知られるようになりました。音楽のテーマも、初期のコルシカの歴史や民族問題といった内容から、恋愛、友情、季節などを歌ったものへと多様化していきました。

新しい傾向

近年では、コルシカ語で歌うロックやラップのアーティストも登場しています。また、伝統的には女性が歌う機会が少なかったものの、1980年代後半以降、女性ポリフォニーグループも結成され、活動の幅を広げています。2009年には「パディエッラ」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。

コルシカ島の民族音楽は、その歴史と多様な形態、そして現代への進化を通して、豊かな音楽文化を築き上げてきました。今後も、その伝統を守りながら、新たな表現を生み出し続けることでしょう。

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