コンスタンティノス11世パレオロゴス

コンスタンティノス11世パレオロゴス・ドラガセスは、1405年2月9日に東ローマ帝国の首都コンスタンティノポリスで、皇帝マヌエル2世パレオロゴスの四男として生まれました。彼はパレオロゴス王朝の一員でありながら、母方の姓「ドラガセス」も名乗りました。幼少期から兄弟の中でも特に優秀で、母ヘレナのお気に入りの息子として、また、兄ヨハネス8世からの期待も一身に受けて育ちました。

1423年、兄ヨハネス8世がオスマン帝国の脅威に対する支援を求めてヨーロッパへ赴いた際、コンスタンティノスは首都の摂政を任されました。彼は母の指導の下、オスマン帝国との平和条約を締結するなど政治手腕を発揮しました。1428年には、ペロポネソス半島のモレアス専制公領の統治者となり、パトラを併合するなど領土拡大に貢献し、ギリシャ人勢力の希望の星となりました。1440年代には、東西教会合同を巡る国内の混乱や、オスマン帝国との戦いの中で、その指導力が試されました。1446年には、西欧からの十字軍と連携してオスマン帝国に挑みましたが、敗北し、ギリシャ人勢力再興の夢は潰えました。

1448年、兄ヨハネス8世が死去すると、後継者争いが勃発しましたが、1449年1月6日、コンスタンティノスはモレアス専制公領の首都ミストラスで皇帝に即位しました。オスマン帝国の脅威が増す中、彼は西欧からの援軍を求めて、東西教会の合同を宣言しましたが、国内の猛反発を招き、外交的な努力は実を結びませんでした。1452年にはメフメト2世がコンスタンティノープルの征服準備を始め、1453年4月には10万のオスマン軍が首都を包囲しました。

メフメト2世は、コンスタンティノープルからの退去を条件に包囲を解こうとしましたが、コンスタンティノスはこれを拒否し、徹底抗戦を決意しました。彼は「帝国なき皇帝として生きることはありえない」と述べ、最後までローマ[[皇帝]]として戦う道を選びました。1453年5月29日、オスマン軍が城壁を突破し、コンスタンティノスは親衛隊とともに市街戦に身を投じ、戦死しました。彼の死とともに、2200年続いたローマ帝国は終焉を迎えました。コンスタンティノープル陥落後、コンスタンティノスの遺体と見られるものが発見され、丁重に埋葬されました。

コンスタンティノス11世は、オスマン帝国支配下のギリシャ人の間で、「大理石と化して眠っている」という伝説が生まれ、いつの日か復活して東ローマ帝国を再興させると信じられました。彼を聖人とみなす正教徒もおり、肖像画は歴史的なギリシャ正教会のイコンとして扱われています。彼は、ギリシャ独立戦争における象徴であり、現代ギリシャでは国民的英雄として尊敬されています。首都アテネには彼の銅像が建てられ、オスマン帝国からの独立に際して建国されたギリシャ王国の最後の国王もコンスタンティノスと名乗っています。

コンスタンティノス11世は二度結婚しましたが、子供は生まれませんでした。最初の妻はマッダレーナ・トッコ、二番目の妻はカテリーナ・ガッティルシオでしたが、いずれも早世しました。三度目の結婚も計画されましたが、コンスタンティノープル包囲戦によって実現しませんでした。もしも、東ローマ帝国が滅亡しなかった場合、帝位は弟のディミトリオスかトーマースが継承することになっていたでしょう。

また、コンスタンティノス11世以外にも同名の「コンスタンティノス・パレオロゴス」が存在します。マヌエル2世の次男であり、1393年から1398年の間に生まれた人物ですが、1405年以前に亡くなっています。他に、コンスタンティノス11世と弟デメトリオスとの間にもう一人、ミカエルという名前の息子がいましたが、こちらも誕生後間もなく死去しています。

コンスタンティノス11世を「12世」や「13世」とする数え方もあります。これは、過去の皇帝や、一時的に皇帝に選ばれた人物を数に含めることによるものです。

夏目漱石の『吾輩は猫である』には、「オタンチン・パレオロガス」という罵倒語が登場します。これは、コンスタンティノス・パレオロゴスの英語読みを揶揄したものだとされていますが、この言葉にコンスタンティノス11世への評価が含まれているのかについては様々な解釈があります。ビザンティン美術研究者の益田朋幸は、末代皇帝への愛情を込めた罵りという解釈を提示し、哲学者の久野昭は、この言葉は読者を物語に引き込むためのもので、コンスタンティノス個人を揶揄するものではないと解釈しています。文献学者の山口謠司も、コンスタンティノスと結びつけた解釈には否定的です。

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