コンピュータ歴史博物館

コンピュータ歴史博物館（Computer History Museum）は、アメリカ合衆国カリフォルニア州マウンテンビューにある、情報技術の歴史を専門とする博物館です。1996年に設立され、コンピュータとその社会への影響に関する貴重な資料の収集、保存、展示を通じて、この革新的な時代の物語を後世に伝えています。

設立とその変遷

博物館の前身は、1996年末から1997年初頭にかけてモフェット連邦飛行場のNASA敷地内に設立された「コンピュータ博物館歴史センター（The Computer Museum History Center, TCMHC）」としてその活動を開始しました。1999年にボストンにあったコンピュータ博物館が閉鎖されると、その収蔵品の大部分がTCMHCに移管され、コレクションの基盤が強化されました。2001年には現在の「コンピュータ歴史博物館」という名称に変更され、情報時代の遺産を専門的に扱う施設としての役割を明確にしました。当初はモフェット連邦飛行場内の旧海軍基地施設を利用していましたが、2003年には現在の建物（かつてシリコングラフィックスが使用）を取得し移転。この建物はその後大規模な改修が施され、2011年1月にリニューアルオープンを迎え、展示スペースと機能を拡充しました。

収蔵品と展示

コンピュータ歴史博物館は、世界でも有数の規模と重要度を誇る情報技術関連のコレクションを所蔵しています。その展示は、コンピュータの黎明期から現代に至る主要な技術的節目や社会的な影響、コンピュータチェスの歴史、そしてシリコンバレーから生まれた多くの革新などに焦点を当てています。展示品には、非常に希少なものや一点物が多数含まれています。例えば、

Cray-1、Cray-2、Cray-3、Cray-4といったスーパーコンピュータの貴重な部品
初期コンピュータグラフィックスの象徴であるユタ・ティーポットの実物
1969年にネオマン・マーカスが販売した初期の家庭用コンピュータ「キッチンコンピュータ」
磁気論理回路のみで構成された特殊なコンピュータ
Apple初のコンピュータ「Apple I」
Googleの初期に使用されていた、カスタマイズされたWebサーバー搭載のサーバーラック
* 世界初の商業用コイン式ビデオゲーム筐体

など、技術史上のマイルストーンとなるアイテムが多数展示されています。

また、約1400平方メートルにも及ぶ「コンピュータの年表（Timeline of Computing History）」展示は、過去2000年間の計算技術の進化を網羅することを意図しており、博物館の主要な見どころの一つとなっています。

期間限定の展示として、チャールズ・バベッジが1840年代に設計し、ロンドンの科学博物館が製作した階差機関が2008年5月から2009年12月にかけて展示されたこともあります。開館時間中は、ボランティアの手によってこの階差機関が実際に動作する様子を見学できる機会もあります。

フェロー制度と貢献者たち

博物館では、「フェロー」（CHM Fellows）制度を設け、世界に革新をもたらし、現代社会に多大な影響を与えた人物を顕彰しています。選出されたフェローは、博物館内の「Hall of Fellows（コンピュータの殿堂）」にその功績が称えられて展示されます。この制度は1987年に始まり、最初のフェローにはグレース・ホッパーが選ばれました。2024年現在までに、コンピュータ科学や産業において重要な役割を果たした100名もの先駆者や技術者がフェローに選出されています。これには、デニス・リッチーとケン・トンプソン（Unix開発）、ジョン・バッカス（FORTRAN開発）、スティーブ・ウォズニアック（Apple共同創業者）、ドナルド・クヌース（The Art of Computer Programming著者）、ティム・バーナーズ＝リー（World Wide Web考案者）、リーナス・トーバルズ（Linux開発者）、ジェンスン・フアン（NVIDIA創業者）など、多岐にわたる分野の貢献者が含まれます。

博物館の活動とボランティア

コンピュータ歴史博物館は、展示活動に加え、様々なイベントやプログラムを実施しています。定期的な展示ガイドツアー、講演会、コンピュータ歴史博物館フェロー賞の授与式、そしてコンピュータの復旧や保存作業、その他特別イベントなどが行われています。多くの活動は、熱心なボランティアグループによって支えられています。ボランティアは案内人や受付として来館者をサポートするだけでなく、貴重なコンピュータ遺産の保存や修復にも携わっており、博物館運営に不可欠な役割を果たしています。

コンピュータ歴史博物館は、単なる過去の遺物を集めた場所ではなく、情報技術がどのように発展し、私たちの生活をどのように変えてきたのかを学び、未来のイノベーションを考えるための重要な拠点となっています。

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