コールタール

コールタール（Coal Tar）

コールタールは、石炭を高温で乾留するプロセスで生成される黒色または暗茶色の油状物質です。この物質は、主にコークスを製造する際の副生成物として得られ、比重は1.1から1.2にわたります。コールタールの主成分は芳香族化合物であり、特に多環芳香族炭化水素を含んでいます。その中でもナフタレン（5%-15%）、ベンゼン（0.3%-1%）、フェノール（0.5%-1.5%）、ペンゾ[a]ピレン（1%-3%）、フェナントレン（3%-8%）などが挙げられます。さらに、コールタールを分別蒸留して得た残留物はコールタールピッチと呼ばれます。

コールタールピッチは加熱することで多環芳香族炭化水素が揮発する特性があり、そのため独特の強い臭気、いわゆるタール臭を持つことになります。かつてコールタールは塗料やコーティング剤として広く使用されていましたが、近年ではその利用が減少しています。特に木材の防腐剤やトタン屋根の塗料としての用途がありましたが、コンクリートや他の建材の普及によりこれらの用途は少なくなりました。

コールタールは、石炭化学プラントでの重要な製品として第二次世界大戦以前には大いに利用されていましたが、大戦後に石油化学産業が発展するにつれてその重要性は相対的に低下しました。しかし、現在でもコールタールからは芳香族化合物、クレオソート油、ピッチなどが生産されており、これらは染料やカーボンブラックの製造に使われています。

医療での利用

コールタール製剤は皮膚科においても利用されています。特に角質溶解や止痒作用があり、過去には乾癬の治療に使用されることがありました。この治療法はゲッケルマン療法と呼ばれていましたが、発癌性が指摘されるようになってからは次第に使用されなくなりました。現在では、松から得られる木タールなど、多環芳香族炭化水素の含有が少ないものが好まれる傾向にあります。イタリアの調査によると、今日では脂漏性湿疹に対してほとんど使われていないとされています。

安全性と発癌性

コールタールは労働安全衛生法において特定化学物質に指定されており、世界保健機関（WHO）のIARCの発癌性リストではグループ1（発癌性あり）に分類されています。この物質は1916年に山極勝三郎と市川厚一による実験で、家ウサギにコールタールを塗布した結果、皮膚癌の発生が確認されたことで知られており、これは化学物質による人工的な癌の発生例の先駆けとされています。しかし、メイヨー・クリニックの研究では、ゲッケルマン療法を受けた乾癬患者において皮膚癌の発生率が一般と比べて上昇しなかったことが示されています。また、アメリカ食品医薬品局（FDA）も治療用途でリスクが増加することを認めていないとしています。

コールタールはこのように多くの歴史と多様な用途を持つ一方で、その安全性についても多くの研究がなされている重要な物質です。

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