ゴスチーヌイ・ドヴォール

ゴスチーヌイ・ドヴォール（гости́ный дво́р）は、ロシアの主要都市に見られる、伝統的な市場建築です。その起源は、様々な商人が集まり、商品を取引する場所として発展したことにあります。多くの場合、新古典主義建築の壮麗な建物であり、都市の景観を特徴づける要素となっています。直訳すると「商人の宿」という意味になり、その名の通り、中庭を持つ形式の建物が多く見られます。かつて中庭は、商品の倉庫や荷物置き場として利用されていました。

サンクトペテルブルクのゴスチーヌイ・ドヴォール

サンクトペテルブルクには、特に有名なゴスチーヌイ・ドヴォールがあります。それが、ネフスキー大通りとサドーヴァヤ通りの角に位置するボリショイ・ゴスチーヌイ・ドヴォール（Great Gostiny Dvor、大ゴスチーヌイ・ドヴォール）です。1757年に建設が始まり、完成までに25年もの歳月を費やしました。52,000平方メートルもの広大な敷地を有し、100軒もの店舗が軒を連ねる、2階建ての巨大な建物です。

その後も増築が重ねられ、20世紀には170軒もの商店が並ぶようになりました。しかし、時代とともに人々の嗜好は変化し、ネフスキー大通り向かいにある「パサーシュ」（Passage）と呼ばれる、より洗練された市場へと人気が移っていきました。それでも、21世紀に入り、大規模な修復が行われた結果、ボリショイ・ゴスチーヌイ・ドヴォールは再び活気を取り戻し、サンクトペテルブルクの主要な市場としての機能を果たし続けています。

ボリショイ・ゴスチーヌイ・ドヴォールは、観光客にとっても便利な場所にあります。ノヴゴロド行きの定期ツアーバスのチケット販売所・発着地となっており、近くには同名の地下鉄駅もあるため、アクセスも容易です。

また、ボリショイ・ゴスチーヌイ・ドヴォールの西隣には、マールイ・ゴスチーヌイ・ドヴォール（Малый Гостиный двор、小ゴスチーヌイ・ドヴォール）と呼ばれる建物があります。この建物は、もともと1790年代に認可銀行として建てられたもので、その後商業施設として利用されるようになりました。

モスクワのゴスチーヌイ・ドヴォール

モスクワには、スタールイ・ゴスチーヌイ・ドヴォール（Old Gostiny Dvor）があります。赤の広場に面し、グム百貨店のイリインカ通り向かいに位置しています。ここは、かつてクレムリンの脇に位置する商業地区「キタイゴロド」でした。1590年にレンガ造りの建物が建てられ、1638年から1641年にかけて大規模な改修が行われました。

現在の建物は、エカテリーナ2世の治世下の1789年に、新古典主義建築の様式で設計されました。しかし、建設は彼女の死後に始まり、1805年に完成しました。1812年の対ナポレオン戦争の際に発生したモスクワ大火で焼失しましたが、1925年から1930年にかけて修復されました。

その後も様々な改築が行われ、ロシア革命後の1923年には、内部が小さな事務所に改築された時期もありました。1995年には、ガラスの屋根に改築され、モダンな百貨店のような外観となりました。

ゴスチーヌイ・ドヴォールは、ロシアの都市における商業と文化の中心地として、長い歴史を歩んできました。その建物は、時代とともに姿を変えながらも、人々の生活に深く根ざし、都市の記憶を刻み続けています。

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