ゴルトツィーエル・イグナーツ

ゴルトツィーエル・イグナーツ（Ignác Goldziher, 1850年6月22日 - 1921年）は、ハンガリー王国出身の著名なイスラム学者であり、東洋学者としても知られています。彼はユダヤ系の家系に生まれ、その学術的な才能は早くから開花しました。

生涯と学問

ゴルトツィーエルは、セゲドで誕生し、エトヴェシュ・ヨージェフ男爵の支援を受けながら、ヨーロッパ各地の名門大学で研鑽を積みました。エトヴェシュ・ロラーンド大学、ベルリン大学、ライプツィヒ大学、ライデン大学で学び、イスラム学の基礎を築きました。

1872年からはエトヴェシュ・ロラーンド大学で私講師（プリヴァートドツェント）として教鞭を執り、イスラム学の分野で後進の指導にあたりました。1873年から1874年には近東を訪れ、現地の文化や学術に触れる貴重な経験を積んでいます。1894年からはアラビア語教授として、その専門知識を広く伝えました。彼の研究はドイツ語で発表され、その多くが重要な学術的貢献として認められています。

研究分野

ゴルトツィーエルの学問的業績は多岐にわたりますが、特にイスラム法学、イスラム神学、ハディース（預言者の言行録）の研究で著名です。彼はハディースがユダヤ教の文献から影響を受けているという説を提唱し、イスラム研究に新たな視点をもたらしました。また、イスラム文学についても深い造詣を持ち、その多面的な研究は後世の学者たちに大きな影響を与えています。

主な著作

ゴルトツィーエルは、数多くの著作を通じてその学識を示しました。以下に主な著作を挙げます。

『アラブにおける言語学史への貢献』（Beiträge zur Geschichte der Sprachgelehrsamkeit bei den Arabern）（1871年-1873年）
『シーア派の文学史への貢献』（Beiträge zur Literaturgeschichte der Shi'a）（1874年）
『ヘブライ人における神話とその歴史的発展』（Der Mythos bei den Hebräern und seine geschichtliche Entwickelung）（1876年）
『ザーヒル派、その内容と歴史』（1884年）：ザーヒル派は現在では消滅したイスラム法学の一派です。
『イスラム研究』（Muhammedanische Studien）二巻（1889年、1890年）
『アラビア言語学論集』（Abhandlungen zur arabischen Philologie）二巻（1896年、1899年）
『魂の本質』（Buch v. Wesen d. Seele）（1907年）
『イスラム講義』（Vorlesungen über den Islam）（1910年）
* 『イスラムにおけるクルアーン解釈の方向性』（Die Richtungen der islamischen Koranauslesung）（1920年）

これらの著作は、彼の幅広い知識と深い洞察力を示すとともに、イスラム研究の発展に大きく貢献しました。

遺産

ゴルトツィーエルの研究は、イスラム世界の歴史、文化、思想を理解する上で不可欠なものとなっています。彼の著作は、今日でも多くの研究者によって参照され、イスラム研究の基礎をなしています。彼の学問に対する情熱と卓越した能力は、後世の研究者たちに大きな刺激を与え続けています。

この記事には、1911年に出版されたブリタニカ百科事典第11版に収録されていた「ゴルトツィーエル、イグナーツ」の項目が含まれており、著作権保護期間が満了しているため、自由に利用できます。この事実もまた、彼の功績が後世に受け継がれている証左といえるでしょう。

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