ゴードン・シングルトン

ゴードン・シングルトン：栄光と波紋の自転車競技人生

ゴードン・"ゴード"・シングルトン（Gordon "Gord" Singleton、1956年8月9日 - 2024年3月）は、カナダ・オンタリオ州ナイアガラフォールズ出身の元自転車競技選手です。特に、1982年の世界自転車選手権プロスプリント決勝で中野浩一と繰り広げた激闘は、多くの自転車ファンに語り継がれています。

アマチュア時代の輝かしい実績

シングルトンはアマチュア時代からその才能を発揮していました。1978年のコモンウェルスゲームズではタンデムスプリントで優勝、1979年のパンアメリカンゲームズでは1kmタイムトライアルとスプリントの2種目で金メダルを獲得しました。同年の世界自転車選手権アマ1kmタイムトライアルでも銀メダルを獲得し、1980年モスクワオリンピックのメダル候補として期待されていましたが、カナダがモスクワ五輪をボイコットしたため、出場は叶いませんでした。

プロ転向と中野浩一との死闘

1981年にプロに転向したシングルトンは、同年の世界選手権プロスプリントで準決勝に進出。高橋健二を破り、決勝で中野浩一と対戦しました。しかし、中野が2本とも先頭を譲らず、5連覇を達成しました。

1982年世界自転車選手権：伝説のレース

1982年の世界選手権で、シングルトンはまずケイリンで優勝し、ダニー・クラークの3連覇を阻止。万全の状態でスプリントに臨みました。一方、中野はこの年、競輪での落車が相次ぎ不調が伝えられていました。決勝では、フランスのヤーベ・カールに1本先取される苦しい展開。何とかその後2本連取して決勝に進出しました。シングルトンは準決勝で亀川修一を圧倒。開催地イギリス・レスターの観客もシングルトンを熱狂的に応援し、下馬評ではシングルトン有利と見られていました。

決勝1本目、シングルトンが逃げる展開に対し、中野はバックストレッチから仕掛けました。しかし、ゴール寸前でシングルトンが右肘を出し、中野と接触。双方がゴールできませんでした。日本選手団はシングルトンのプレーに対し抗議しましたが、受け入れられませんでした。再戦ではシングルトンが中野を圧倒し、中野の6連覇を阻止するかに見えました。

2本目も1本目と同様の展開となり、中野は2センターから捲りを試みました。すると、シングルトンは再びゴール寸前で右肘を中野に出しました。しかし、今度は中野はこれをかわし、シングルトンのみが転倒。シングルトンは右肘を骨折し、3本目のレース続行は不可能となりました。中野は薄氷を踏む思いで6連覇を達成しましたが、シングルトンは表彰台で中野と肩を組むことを拒否しました。

事実上の引退勧告

中野との一戦だけでなく、ケイリン決勝でもシングルトンはクラークのユニフォームを掴むなど、ラフプレーが目立ちました。国際自転車競技連合（UCI）は、シングルトンの行為がスポーツマン精神に反すると判断し、無期限出場停止処分を科しました。UCI主催以外の大会への出場は認められたものの、世界選手権への出場資格は永久に剥奪されたため、シングルトンは翌年現役を引退しました。

引退後と晩年

引退後、シングルトンはNHKの番組で紹介され、父親の仕事を手伝っている様子が放送されました。1998年には、マンチェスターで開催されたマスターズ世界選手権スプリント（40～44歳の部）に出場し、優勝を果たしています。

2024年3月24日、前立腺癌のため死去。67歳でした。

ゴードン・シングルトンは、その才能と激しいプレースタイルで、自転車競技史に名を刻んだ選手でした。

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