サイモン・プレストン

サイモン・プレストン（Simon Preston）は、1938年8月4日にイギリスで生を受け、2022年5月13日にその生涯を閉じた、多才な音楽家です。オルガニスト、指揮者、そして作曲家として、彼はクラシック音楽界に多大な足跡を残しました。

イングランド南西部のボーンマスに生まれたプレストンは、1956年から1958年にかけてロンドンの王立音楽アカデミーで学び、音楽の基礎を築きました。その後、ケンブリッジ大学のキングズ・カレッジにてオルガン給費生として研鑽を積み、音楽修士号を取得しました。彼の公式デビューは1962年、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールにおける演奏会で、レオシュ・ヤナーチェクの荘厳な『グラゴル・ミサ』でオルガン・パートを担当し、聴衆に強い印象を与えました。

プレストンはイギリス国内の主要な教会でオルガニストや合唱指揮者といった重要な役職を歴任しました。1962年にはウェストミンスター寺院の副オルガニストに就任し、1967年までその職を務めました。1967年からは聖オールバン教会のオルガニスト兼合唱指揮者として活動の場を移し、1970年にはオックスフォード大学クライスト・チャーチ（キリスト教会）のオルガニストおよび聖歌隊隊長を兼任するに至ります。さらに1971年からは、同地のオックスフォード・バッハ合唱団の指揮者としても活動しました。

これらの教会での責任ある役割を果たす傍ら、プレストンはコンサートオルガニストとしても精力的に活動を開始しました。ヨーロッパや北アメリカ各地で演奏旅行を行い、国際的な名声を確立していきます。また、著名なチェンバロ奏者であるジョージ・マルコムからの影響を受け、チェンバロ奏者としても演奏活動を行い、その分野でも評価を得ました。

指揮者としてのキャリアも重要な一面です。イギリス・バッハ音楽祭におけるウィリアム・ウォルトンの『ユビラーテ』世界初演を指揮して以来、彼の指揮活動は活発化しました。彼の音楽性は、バロック音楽に留まらず、古典派、ロマン派、さらには現代音楽に至るまで、非常に幅広いレパートリーを網羅していました。

キャリアの頂点の一つとして、1981年にはウェストミンスター大寺院の正オルガニストに就任し、1987年までこの名誉ある地位を務めました。

日本へも度々訪れており、1988年には初めて来日し、NHKホールでリサイタルを開催しました。1999年には、トランペット奏者のホーカン・ハーデンベルガーと共に東京オペラシティ コンサートホールでデュオ・リサイタルを行うなど、日本の聴衆にもその素晴らしい演奏を披露しました。

プレストンの音楽的遺産は数多くの録音にも残されています。ドイツ・グラモフォンやデッカ・レコードといった主要レーベルから多くのアルバムを発表しました。ドイツ・グラモフォンからは、ジェームズ・レヴァイン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演によるサン＝サーンス交響曲第3番『オルガン付き』のオルガン・パートを担当した録音が特に有名であり、彼の代表的な録音の一つとされています。この他にも、J.S.バッハの「6つのトリオ・ソナタ」を含むオルガン作品集や、自身の指揮によるヘンデルのオルガン協奏曲集などがあります。デッカからは、自身がコンセルトヘボウ室内管弦楽団を指揮したヘンデルの『水上の音楽』や『王宮の花火の音楽』の録音などが知られています。

サイモン・プレストンは、その卓越した演奏技術、幅広い音楽的才能、そして教会音楽への深い貢献により、20世紀後半から21世紀初頭にかけてのイギリス音楽界において、極めて重要な人物として記憶されています。

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