サクラソウ属

サクラソウ属（Primula）について

サクラソウ属は、サクラソウ科に属する多年草のグループで、その美しい花で知られています。世界中に約500～600種が存在し、特に北半球の温帯から寒帯にかけて多く見られます。園芸品種も多数存在し、観賞用として広く栽培されています。

特徴

サクラソウ属の植物は、地下に根茎を持ち、そこから葉を伸ばします。葉は根元から出るものが多く、丸みを帯びたものや楕円形のものがあります。花茎は葉の間から伸び、その先端に散形または輪生状の花序をつけます。

花は、5つに裂けた萼と、筒状で先端が5つに分かれた花弁を持ちます。雄しべは5本で、花弁の中に収まっています。雌しべには異形花柱性という特徴があり、同じ種でも個体によって花柱（雌しべの一部）が雄しべより短いものと、長いものが存在します。これは、異なる花柱タイプ同士の受粉を促し、近親交配を避けるための適応と考えられています。

生態と多様性

サクラソウ属は、多様な環境に適応しており、その種類は非常に豊富です。ヨーロッパでは、園芸植物として「プリムラ」と総称されるものが多く、日本でもサクラソウが江戸時代から古典園芸植物として発展し、多くの品種が作られてきました。

しかし、その美しさゆえに、乱獲によって絶滅の危機に瀕している種も存在します。サクラソウやクリンソウ、カッコソウなどがその例で、生育環境の破壊も大きな影響を与えています。一方で、高山に自生する種も多く、もともと生育地が限られているため、いずれにしても貴重な植物として保護する必要があります。

主な種

日本には以下のような種が知られています。

サクラソウ (P. sieboldii)：古典園芸植物として知られ、多くの品種があります。
カッコソウ (P. kisoana)：本州中部の限られた地域に自生する希少種です。
シコクカッコソウ (var. shikokiana)：カッコソウの変種で、四国に分布します。
オオサクラソウ (P. jesoana)：北海道に自生する大型のサクラソウです。
エゾオオサクラソウ (var. pubescens)：オオサクラソウの変種で、毛が多いのが特徴です。
イワザクラ (P. tosaensis)：四国や九州の山地に自生する岩場を好む種です。
シナノコザクラ (var. brachycarpa)：本州中部山地に自生する小型のサクラソウです。
コイワザクラ (P. reinii)：本州中部から近畿地方の山地に自生します。
クモイコザクラ (var. kitadakensis)：南アルプスに自生する高山植物です。
ミョウギコザクラ (var. myogiensis)：群馬県妙義山周辺に自生する希少種です。
チチブイワザクラ (var. rhodotricha)：秩父地方に自生する岩場を好む種です。
テシオコザクラ (P. takedana)：北海道に自生するサクラソウです。
ヒダカイワザクラ (P. hidakana)：北海道の日高地方に自生する岩場を好む種です。
カムイコザクラ (var. kamuiana)：北海道に自生する高山植物です。
エゾコザクラ (P. cuneifolia var. cuneifolia)：北海道に広く分布する小型のサクラソウです。
ハクサンコザクラ (var. hakusanensis)：白山に自生する高山植物です。
ミチノクコザクラ (var. heterodonta)：東北地方に自生するサクラソウです。
ヒナザクラ (P. nipponica)：本州中部の亜高山帯に自生する小型のサクラソウです。
クリンソウ (P. japonica)：日本固有種で、湿地などに咲く美しい花です。
ユキワリソウ (P. modesta)：本州に自生する早春に咲く花です。
ユキワリコザクラ (var. fauriei)：ユキワリソウの変種で、小型です。
レブンコザクラ (var. matsumurae): 北海道礼文島に自生する希少種です。
ユウバリコザクラ (P. yuparensis)：夕張山地に自生する希少種です。
ソラチコザクラ (P. sorachiana)：北海道空知地方に自生する希少種です。
ヒメコザクラ (P. macrocarpa)：北海道に自生する小型のサクラソウです。

海外には、以下のような種があります。

プリムラ・ジュリエ (P. juliae)
プリムラ・マラコイデス (P. malacoides)：中国原産で、ケショウザクラ、オトメザクラとも呼ばれます。
プリムラ・オブコニカ (P. obconica)：中国西部原産で、トキワザクラとも呼ばれます。
プリムラ・アリオニイ (P. allionii)：ヨーロッパアルプス南部に自生する小型の種です。
プリムラ・マルギナタ (P. marginata)：アリオニイに近い場所に分布し、美しい葉を持つ種です。
プリムラ・アウリクラ (P. auricula)：ヨーロッパの山岳に広く分布する種で、和名アツバサクラソウ。
プリムラ・アルピコラ (P. alpicola)：ヒマラヤから中国雲南省にかけて自生する種です。
プリムラ・プルウェルレンタ (P. pulverulenta)：中国原産で、クリンソウの近縁種です。
プリムラ・デンティクラタ (P. denticulata)：ヒマラヤに産する、手まり状の花を咲かせる種です。
プリムラ・ロセア (P. rosea)：ヒマラヤ原産のバラ色の花を咲かせる小型種です。
プリムラ・ファリノサ (P. farinosa)：ヨーロッパ産で、日本のユキワリコザクラに近縁です。
プリムラ・ヴルガリス (P. vulgaris)：ヨーロッパ産の野生種で、英名プリムローズ。
プリムラ・ヴェリス (P. veris)：ヨーロッパ産で、英名カウスリップ。
プリムラ・エラティオール (P. elatior): ヨーロッパ産で、英名オクスリップ。

保護について

サクラソウ属の植物は、乱獲や環境破壊によって、絶滅の危機に瀕している種が多く存在します。これらの植物を保護するためには、生育環境の保全や、適切な栽培方法の普及が重要です。また、植物に対する理解を深め、自然を大切にする心がけが必要です。

参考文献

サクラソウの目　第二版　鷲谷いづみ著　地人書館刊　2006年　ISBN 4-8052-0775-2
サクラソウの分子遺伝生態学　鷲谷いづみ編　東京大学出版会刊　2006年　ISBN 978-4-13-066156-0

関連項目

プリムラ

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