サドコ

サドコ（ロシア語: Садко）は、中世ロシアの口承叙事詩である「ブィリーナ」に登場する伝説的な人物です。彼は商業都市として栄えたノヴゴロド出身で、卓越したグースリ（ロシアの弦楽器）の演奏家であり、後に富を築いた商人としても知られます。

物語の概要

物語は、貧しいグースリ奏者であったサドコが、生計のために宴会で演奏していましたが、次第に呼ばれなくなる場面から始まります。寂しさからイリメニ湖のほとりで一人グースリを奏でていると、湖面が激しく波立ち、やがて湖の主である水の王が現れます。水の王はサドコの演奏を大いに気に入り、彼に富をもたらす約束をします。王の助言に従い、サドコは地元の有力商人たちに対し、「湖には金の鰭を持つ魚がいる」という前代未聞の賭けを挑みます。商人は店の全財産を賭け、サドコは自らの命を賭けたこの賭けは、水の王の力によってサドコが勝利し、彼は一躍大商人となります。

莫大な富を得たサドコは、豪華な邸宅を構え、多くの宴会を催すようになります。さらに、彼は30艘もの船を建造し、ノヴゴロドの商品を携えてはるか海外との貿易に乗り出します。しかし、その帰路、船団は洋上で突然動けなくなり、激しい嵐に見舞われます。これは、サドコが海の王に適切な貢ぎ物を捧げることを怠ったためだと悟った彼は、金銀財宝を海に投じますが効果はありません。海の王が人間を求めていると察したサドコは、乗組員たちと共にくじを引きます。驚くべきことに、三度にわたってサドコだけが選ばれてしまいます。覚悟を決めたサドコは、形見にグースリを手に海に身を投じます。

海底に沈んだサドコは、海の王の宮殿に招かれます。そこで再びグースリを演奏すると、海の王はその音色に魅了され、激しく踊り始めます。王の踊りにつれて海は荒れ狂い、海上のサドコの船団は沈没の危機に瀕します。船員たちの祈りを聞き入れた守護聖者ニコラ（モジャイスクのニコラ）が、海の王宮殿にいるサドコのもとに現れ、地上へ戻るための助言を与えます。ニコラの指示通り、サドコはグースリの弦を断ち切ります。演奏が止まり、海の王はサドコに褒美として花嫁を選ぶよう命じます。ニコラから特定の娘を選ぶよう教えられていたサドコは、多くの美しい娘たちの中から、チェルナヴァという名の娘を見つけ、彼女を花嫁に選びます。結婚の宴の後、サドコはチェルナヴァの傍らで横たわりますが、ニコラの助言を守り、何もせずに眠りにつきます。

サドコが目を覚ますと、そこはノヴゴロド近郊、故郷を流れるチェルナヴァ川のほとりでした。ヴォルホフ川へと向かうと、ちょうど彼の船団が無事帰還しており、妻が乗組員たちと共に彼の供養を行っていました。奇跡的な再会を喜び、サドコは財産を運び込みます。そして、守護聖者ニコラとの約束を果たし、ニコラと聖母マリアのための教会を建立します。その後、サドコは二度と海に出ず、陸で穏やかに暮らしたと伝えられています。

主題と背景

サドコの物語における特徴的なモチーフの一つは、旧約聖書の「ヨナ書」にも見られる、くじによって選ばれた人物が海に投身するという場面です。この主題は、古来より多くの文化圏の民話やバラッドにも共通して見られます。

多様な翻案

19世紀後半、ロシアにおけるスラブ主義運動の高まりと共に、サドコの物語は再び注目を集めます。アレクセイ・コンスタンティノヴィチ・トルストイによる詩や、特にニコライ・リムスキー＝コルサコフによるオペラ『サトコ』など、多くの芸術作品の題材となりました。リムスキー＝コルサコフは、オペラに先立って同名の管弦楽曲も作曲しています。オペラは後にアレクサンドル・プトゥシコ監督によって映画化（邦題『虹の世界のサトコ』）され、現代でもフランスやロシアでアニメーション作品が制作されるなど、時代を超えて様々な形で語り継がれています。

史実との関係

サドコの物語がどの程度史実に基づいているかは議論があります。一説には、12世紀にノヴゴロドのデティネツ（城塞）内に石造りの教会建立を後援した実在の人物、ソドコ・スィチニツがモデルではないかとも考えられています。また、サドコによるノヴゴロドの富の拡大は、ヤロスラフ賢公によるノヴゴロド公国の発展と関連づけられることもあります。物語の成立時期についても諸説あり、11世紀以前とする見方や、モデルとされるソドコ・スィチニツが生きた12世紀以降とする見方があります。リムスキー＝コルサコフのオペラでは、物語の舞台を13世紀から14世紀、モンゴル帝国の支配を免れノヴゴロドがロシアの中心都市としての地位を確立していた時代に設定しています。

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