グースリ

グースリ

グースリは、古くからロシアに伝わる弦楽器です。その歴史は深く、中世ロシアにおいて、ロシア正教会が原則として器楽演奏を禁じていた時代にあっても、グースリはその数少ない例外として使用が許されていました。これは、その音が人々の精神生活や宗教儀式と結びついていた可能性を示唆しています。

特に中世ロシアで活躍した芸能者であるスコモローフにとって、グースリは不可欠な道具でした。彼らはグースリを奏でながら、口承叙事詩であるブィリーナを語り継いだと考えられています。ブィリーナの物語世界においても、グースリはスコモローフの象徴としてしばしば登場します。例えば、キエフの英雄であるドブルィニャ・ニキーチチや、ノヴゴロドの裕福な商人サドコの物語の中で、グースリが重要な役割を果たしている描写を見ることができます。

グースリは、その使用された時代や共鳴器の形状によって、主に三つのタイプに分類されます。

翼型グースリ

最も古い歴史を持つ形式が翼型グースリです。その現物は13世紀のものとされるものがノヴゴロドで発見されており、古来からの存在を証明しています。このタイプは「ズヴォーンチャトゥイエ」とも呼ばれ、これはロシア語で「よく鳴るもの」を意味します。張られている弦の数は5本から14本程度で、主に全音階で調律されます。演奏は指先を使って行われます。

19世紀末には、音域を広げたり、半音階に対応したりするための改良が加えられました。また、音域によって楽器の大きさを変える試みも行われました。しかし、現在でもヨーロッパ・ロシアの北西部を中心に、古い形式の翼型グースリが民衆の間で受け継がれ、演奏されています。

兜型グースリ

14世紀から15世紀にかけて登場したのが、翼型を改良して発展したとされる兜型グースリです。このタイプでは弦の数が増え、11本から30本程度の弦が張られました。演奏方法は翼型と同様、指先で弦を弾きます。楽器の形状は、オーストリアやスイスなどで使われるツィターと似ています。

中でも、特に丸みを帯びた台形の形状をしているものはプサルテリウムと呼ばれることもありました。兜型グースリは、ヴォルガ川流域に住むマリ人やチュヴァシ人といった少数民族の間にも広く普及しました。

箱形グースリ

箱形グースリは、17世紀初頭に主に都市部で用いられるようになった比較的新しいタイプです。その構造は、鍵盤を持たない時代のクラヴィコードに類似しています。弦の数は55本から66本と大幅に増加しています。このタイプは「撥弦（しっぽこーヴぃえ）グースリ」とも呼ばれ、演奏には革などを固めた義甲（ピック）や指先が用いられます。

さらに、1914年にはN.P.フォミーンによって、箱形グースリに1オクターブの鍵盤が取り付けられた「鍵盤（くらーゔぃしにえ）グースリ」が開発されました。これは、鍵盤を押すことで該当するオクターブの弦がミュートされ、弾いた弦の音がそのオクターブで響くという仕組みで、特にアルペジオの演奏において効果を発揮しました。

撥弦グースリと鍵盤グースリは、現代のロシア民族楽器オーケストラにおいて重要なパートを担っています。その豊かな響きは、ロシアの音楽文化に彩りを添え続けています。

もう一度検索