サヌーシー教団

サヌーシー教団：リビアの歴史を彩るイスラム神秘主義教団

サヌーシー教団は、19世紀にムハンマド・イブン・アリー・アッ＝サヌーシーによって創設されたイスラム神秘主義教団です。「ネオ・スーフィズム」と呼ばれるイスラム神秘主義の改革運動の流れを汲み、特にリビア東部のキレナイカ地方で強い信仰を集めました。

創設の背景

創設者のムハンマド・イブン・アリー・アッ＝サヌーシーは、現在のアルジェリアで生まれました。各地を遊学した後、1826年にメッカ巡礼を行った際、イスラム神秘主義者のイブン・イドリースに傾倒し、その教団に入門して高弟となりました。当時、アラビア半島ではイスラム神秘主義を否定するワッハーブ派が台頭しており、これに対抗するためイスラム神秘主義側でも改革運動が起こっていました。サヌーシーが修行を積んだイドリース教団は、そのような改革運動の代表的存在であり、その復古的な思想や強固な教団組織は、後のサヌーシー教団に大きな影響を与えました。

1837年、サヌーシーはメッカで自身の教団であるサヌーシー教団を組織しますが、後にメッカで支配者の内紛が起こった際にそこを離れ、1843年に当時オスマン帝国領だったキレナイカに移住し、そこで教えを広めました。当時のキレナイカは、遊牧民同士の衝突が絶えない無秩序な土地でしたが、サヌーシー教団は荒れた内陸部に本拠を構え、節倹を旨とし、質素な儀式で遊牧民たちの心をつかみ、調停者として教線を拡大していきました。1859年にサヌーシーが亡くなった後も教団は拡大を続け、キレナイカ一帯に大きな勢力を誇るようになりました。オスマン帝国政府はキレナイカにあまり介入せず、サヌーシー教団はキレナイカで自治を行い、繁栄を続けました。しかし、1908年に青年トルコ人革命が起きると、サヌーシー教団は弾圧を受けるようになります。

イタリアとの戦い

1911年に伊土戦争が勃発し、イタリア王国がリビアに侵攻すると、サヌーシー教団はオスマン軍に協力して内陸部に逃れ、ゲリラ戦を展開してイタリア軍を苦しめました。1912年に和平が結ばれ、キレナイカはイタリア領リビアとなりました。

第一次世界大戦中、サヌーシー教団はトルコの支援の下で抵抗を続け（サヌーシー戦争）、イタリアと戦いました。1920年には一時停戦が成立し、サヌーシー教団の指導者ムハンマド・イドリースをキレナイカの支配者と認めましたが、1922年にムッソリーニがイタリアの政権を握ると再び戦闘が勃発し、イドリースはエジプトに逃れました。しかし、サヌーシー教団のオマル・ムフタールはなおも内陸部で抵抗を続け、1931年までイタリア軍と戦い続けましたが、同年捕らえられ処刑されました。

その後もサヌーシー教団は、エジプトのイドリースの元でイタリアと対立を続け、第二次世界大戦においては連合国側に参加し、イタリアと戦いました。

リビア独立とその後

1951年にリビアが独立する際、トリポリタニア、キレナイカ、フェザーンの3地域をまとめられる人物として、キレナイカ首長だったムハンマド・イドリースが擁立され、リビア連合王国の国王イドリース1世として即位しました。

しかし、1969年にカダフィによるクーデターが起こり、イドリースは亡命を余儀なくされました。

サヌーシー教団は、その成立からリビア独立、そしてその後の混乱まで、リビアの歴史に深く関わってきた教団と言えるでしょう。

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