サベナ航空572便ハイジャック事件

サベナ航空572便ハイジャック事件

1972年5月8日、ベルギーのサベナ航空572便（ボーイング707型機）が、パレスチナの過激派組織「黒い九月」のメンバー4人によってハイジャックされました。この事件は、軍の特殊部隊によるハイジャック制圧作戦の先例として、世界各国の治安機関に大きな影響を与えました。

事件の経緯

572便は、ウィーンを経由してイスラエルのテルアビブへ向かう途中でした。離陸直後、武装した4人の犯人グループが機体を制圧。彼らは機体をテルアビブのロッド空港（現在のベン・グリオン国際空港）に着陸させました。このハイジャックを立案したのはアリー・ハサン・サラーマで、現場のリーダーはアリ・ターハでした。

犯行グループは、イスラエルの刑務所に収監されている315人のパレスチナ人テロリストの釈放を要求しました。要求が受け入れられない場合、乗客と乗員を乗せたまま機体を爆破すると脅迫。実際に爆破準備まで進めましたが、レジナルド・レヴィ機長の説得により、一旦は爆破を回避しました。

イスラエルの国防大臣モーシェ・ダヤンは犯人側との交渉を開始し、同時に「アイソトープ作戦」と名付けられた人質救出作戦を準備しました。

翌9日午後4時、エフード・バラック（後のイスラエル首相）率いるイスラエル国防軍の特殊部隊サイェレット・マトカルの精鋭16名が救出作戦を開始しました。サイェレット・マトカルは、イスラエル特殊部隊の中でも選りすぐりの部隊で、対テロ作戦や急襲を専門としています。彼らは航空整備士を偽装し、白い作業着を着用して犯人グループを欺きました。

制圧作戦はわずか10分で終了しました。犯人のうち2人は射殺され、残りの2人は逮捕されました。銃撃戦により乗客3人が負傷し、そのうち1人が後に死亡しました。

「世界の救出作戦 (文庫版新戦史シリーズ 土井 寛著)」によると、救出作戦の成功はレヴィ機長の献策によるもので、彼の冷静な対応が惨事を防いだとされています。

逮捕された2人の女性犯人は終身刑を宣告されましたが、1982年のイスラエル国防軍によるレバノン南部侵攻作戦後の捕虜交換で釈放されました。

ハイジャックされた572便は、損傷が少なかったため、サベナ航空はその後5年ほど使用し続けました。その後、イスラエル空軍に売却され、長距離偵察任務に使用されました。

事件の影響

この事件は、特殊部隊によるハイジャック制圧作戦の成功例として、世界各国の治安機関に大きな影響を与えました。特に、対テロ作戦における特殊部隊の役割が再認識されるきっかけとなりました。

関連事項

ベンヤミン・ネタニヤフ：後のイスラエル首相。当時、サイェレット・マトカルの一員として制圧作戦に参加しました。
黒い九月：このハイジャック事件を起こしたパレスチナの過激派組織です。

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