サミュエル・コールリッジ＝テイラー

サミュエル・コールリッジ＝テイラー（Samuel Coleridge-Taylor, 1875-1912）は、ヴィクトリア朝後期のロンドンに生を受けた、異なる文化背景を持つイギリスの作曲家、指揮者です。父親はシエラレオネ出身の医師、母親はイギリス人でした。彼の名前は18世紀の詩人、サミュエル・テイラー・コールリッジに由来しますが、ハイフンで繋がれた姓は印刷上の偶然から生まれたものでした。父親が西アフリカへ戻った後、彼は母親とその養父母であるホルマン家によって育てられました。音楽的な環境で育ったものの、彼の功績は父の故郷シエラレオネでは残念ながら忘れられています。

彼は若くして音楽的才能を示し、英国王立音楽大学でチャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードに師事しました。スタンフォードは後に彼の代表作となるカンタータ《ハイアワサの婚礼》の初演を指揮することになります。学業を終えた後、クロイドン音楽学校で教鞭を執り、学生オーケストラを指揮しました。1899年には大学時代の同級生ジェシー・ウォルミズリーと結婚しましたが、彼女の両親はコールリッジ＝テイラーの混血という背景から結婚に反対しました。二人の間には、後に作曲家となった娘グウェンドリン（アヴリルと改名）と息子ハイアワサが生まれました。

作曲家としての名声はすぐに高まりました。エドワード・エルガーの推薦により、彼の《管弦楽のためのバラードイ短調》がスリー・クワイアーズ・フェスティバルで初演され成功を収めました。楽譜出版社の有力者アウグスト・イェーガーからも「天才」と称賛され、初期から重要な存在として認識されます。特に成功した作品は、ヘンデルの《メサイア》やメンデルスゾーンの《エリヤ》に匹敵するほどの人気を博したカンタータ《ハイアワサの婚礼》でした。この作品はイングランド中の合唱団によって広く演奏され、その後の《ミンネハハの死》や《ハイアワサの旅立ち》といった関連作も生まれました。指揮者マルコム・サージェントによるロイヤル・アルバート・ホールでの大規模な上演は特に有名です。

コールリッジ＝テイラーは、アメリカ合衆国のアフリカ系アメリカ人コミュニティから非常に尊敬されました。1901年には、彼にちなんだ合唱団が設立されるほどでした。1904年以降、彼は三度にわたるアメリカ演奏旅行を行い、いずれも大きな成功を収めました。この経験を通じて、彼は自身のアフリカ系の文化遺産への関心を深め、「ブラームスがハンガリー音楽に、ドヴォルザークがボヘミア音楽にしたことを、アフリカの音楽のために成し遂げたい」という志を抱くようになります。詩人ポール・ローレンス・ダンバーとの交流は、彼の黒人としての自覚や、アメリカ大陸の音楽への関心に影響を与えました。アメリカでの称賛は高く、彼は「黒いマーラー」という異名で呼ばれるようになりました。

彼は生涯を通じて内気な性格でしたが、指揮台では的確な指示で団員を導きました。多くの音楽祭で講師や審査員としても招かれるなど、音楽界での信頼は厚いものでした。非常に優しく、特に困難を抱える黒人に対しては親切でした。しかし、作曲家が自身の作品から適切な報酬を得られていないという現実を憂慮するあまり、著作権を無償で譲渡したり、過剰に金を分け与えたりすることがあり、経済的には恵まれませんでした。

1912年秋、過労と肺炎が原因で、わずか37歳の若さでこの世を去りました。彼の死後、残された未亡人は経済的に困窮しましたが、国王ジョージ5世から年間100ポンドの恩給が与えられ、彼への高い世評が示されました。同年にロイヤル・アルバート・ホールで追悼演奏会も開催されています。

作品には《ハイアワサの歌》組曲の他に、アンセム、ヴァイオリンのための《アフリカ舞曲》などの室内楽曲があり、《演奏会用小組曲》（Petite Suite de Concert）は現在も頻繁に演奏される人気曲です。また、《ヴァイオリン協奏曲》のパート譜がタイタニック号沈没事故で失われたため、初演が遅れたというエピソードも残されています。

没後も彼の作品への関心は続いています。近年、フリーランスの音楽編集者によって未出版の重要な室内楽曲（九重奏曲、ピアノ五重奏曲、ピアノ三重奏曲）が発見され、実用版の作成や演奏、録音が行われています。また、遺作の交響曲や《ハイチ舞曲》なども近年になって出版・演奏されており、彼の音楽遺産の全貌が再評価されています。コールリッジ＝テイラーは、その短い生涯に多様な文化的要素を取り入れた魅力的な音楽を生み出し、現代においてもその価値が再認識されています。

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