サラーフッディーン・アル＝ビータール

サラーフッディーン・アル＝ビータール：アラブ・バアス党の設立と悲劇的な最期

サラーフッディーン・アル＝ビータールは、20世紀の中東を揺るがしたアラブ・バアス党の創設者の一人であり、シリアの政治史において重要な役割を果たした人物です。ダマスカスで裕福なスンニ派ムスリムの家庭に生まれた彼は、保守的な教育を受けながらも、若くしてナショナリズムと社会主義に傾倒していきました。

生い立ちと教育

1912年、ダマスカスの裕福な穀物商人の家庭に生まれたビータールは、信心深く、ウラマー（イスラム法学者）の血を引く家系に育ちました。幼少期は、フランスによる植民地支配下のシリアで過ごしました。1925年から1927年にかけて発生したフランスに対する反乱は、彼の生きた時代背景を象徴する出来事でした。彼はこの混乱の中、宗教的な教育と中等教育を受けました。

1929年、彼はフランスのソルボンヌ大学に留学します。そこで出会ったミシェル・アフラクとの出会いが、彼の政治思想に大きな影響を与えました。二人は、ナショナリズムと社会主義を融合させた独自の政治理論を構築し始めます。

政治活動の開始とアラブ・バアス党の設立

1934年にシリアに戻ったビータールは、アフラクと共に、当初は共産主義運動にも関わっていました。しかし、フランス共産党の植民地政策への対応や、シリア共産党の姿勢に幻滅し、独自の道を歩むことを決意します。

1939年、アフラクと共に学生グループを結成し、1941年にはフランスによるシリア統治を批判する冊子「アラブ復興」を出版しました。これは、アラブ民族主義運動の先駆者であるザキー・アル＝アルスーズィーの思想を継承するものでした。

1942年、ビータールとアフラクは教職を辞し、政治活動に専念することを誓います。徐々に支持者を増やし、1945年にはアラブ・バアス運動の事務局を結成しました。アルスーズィーの支持者も加わり、勢力を拡大していきました。1947年にはアラブ・バアス党の最初の党大会が開催され、ビータールは党の指導的役割を担うことになります。

シリアにおける政治活動とバアス党政権

1950年代、ビータールは政権との葛藤や、アラブ連合共和国の成立・解消といった激動の時代を経験しました。バアス党は政権の転覆を繰り返し試み、1963年の3月8日革命によってついに政権を獲得します。ビータールは革命指導国民評議会のメンバーとなり、首相に就任します。しかし、党内の急進派との対立が深まり、1966年のクーデターによって権力を失い、亡命を余儀なくされました。

亡命と暗殺

レバノン、そしてヨーロッパへと亡命したビータールは、亡命先でも政治活動を続けました。シリア政府を批判する活動を行い、1969年には欠席裁判で死刑判決を受けます。1978年には赦免されますが、パリで活動を続けました。1980年7月21日、パリで暗殺されました。実行犯は不明ですが、シリア政府の関与が疑われています。

サラーフッディーン・アル＝ビータールは、アラブ民族主義と社会主義を理想とした政治家でした。彼の生涯は、理想と現実の狭間で苦悩し、激動の時代を生き抜いた一人の政治家の物語として、後世に語り継がれるべきでしょう。彼の死は、中東政治における複雑な力関係を象徴する出来事として、今もなお議論を呼び続けています。彼の業績と悲劇的な最期は、アラブ世界の歴史において重要な位置を占めています。

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