サン・マルコ・プラットフォーム

サン・マルコ・プラットフォームは、イタリアがかつてケニア沖のインド洋上に所有し運用していた、類まれな洋上人工衛星打ち上げ施設です。その創設者であるルイージ・ブログリオ氏にちなみ、ルイージ・ブログリオ宇宙センター（Luigi Broglio Space Center、略称：BSC）としても広く知られています。

この先進的な施設は、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の航空宇宙研究センター（CRA）とアメリカ航空宇宙局（NASA）が共同で開発し、1964年から1988年までの約四半世紀にわたり活用されました。基地は南緯2度56分18秒、東経40度12分45秒、ケニアの沖合いに位置しており、インド洋上に浮かんでいました。発射の最終的な制御は、この基地の南東に配置されたサン・リタ・プラットフォームから行われました。

イタリア 宇宙開発の黎明期とサン・マルコ計画

イタリアにおける宇宙開発の取り組みは、1959年にローマ・ラ・サピエンツァ大学内に航空宇宙研究センター（CRA）が設立されたことから始まりました。この創設が、後のイタリアの宇宙活動の基盤となります。そして、その活動を大きく前進させたのが、1962年 9月7日にイタリアとNASAの間で締結された学術協定、通称「サン・マルコ計画」です。この協定に基づき、イタリアのチームはNASAで集中的な研修を受け、アメリカの技術的指導のもと、イタリア初の人工衛星「サン・マルコ1号」の打ち上げという歴史的快挙を成し遂げます。これは1964年 12月16日、アメリカ合衆国バージニア州にあるワロップス飛行施設で行われました。

サン・マルコ1号の成功に続き、イタリアは自国からの衛星打ち上げ能力を持つことを目指しました。しかし、イタリア本土から東向きにロケットを打ち上げる場合、比較的近距離に他国の領土や領海が存在するため、安全上の問題が生じます。この地理的な制約を克服するために考案されたのが、洋上プラットフォームからの打ち上げという画期的なアイデアでした。

洋上基地の構造と運用

サン・マルコ・プラットフォームは、このアイデアを具現化した施設です。実際には、2基の退役した石油プラットフォームを改修したものと、それらを支援するための2隻の船舶から構成されていました。これらの施設全体が、打ち上げ基地としての機能を有していたのです。打ち上げに使用されたロケットは、主に信頼性の高い全段固体燃料ロケットであるスカウトロケットでした。スカウトロケットは、主に科学衛星の打ち上げに用いられましたが、基地からは観測ロケット（ナイキ・アパッチ、ナイキ・トマホーク、アーカス、ブラック・ブラントなど）の打ち上げも行われました。

サン・マルコ・プラットフォームは、稼働期間中に計27基の人工衛星を宇宙へと送り出しました。特筆すべき打ち上げとしては、1970年 12月12日に軌道投入された「ウフル」があります。この衛星は、世界初のX線天文衛星であり、その後のX線天文学の発展に多大な貢献をしました。ウフルの成功は、洋上基地の能力とイタリアの宇宙技術の高さを世界に示しました。

基地の終焉とその後の影響

洋上基地としてのサン・マルコ・プラットフォームは、1988年をもって運用を終了し、その後1990年に解体されました。その役割は終えましたが、イタリアの宇宙開発史におけるその貢献は決して小さくありません。イタリアが独自の人工衛星打ち上げ能力を持つための基盤となり、多くの科学的成果をもたらしました。

サン・マルコ・プラットフォームの名称は、遠い宇宙空間にもその名を残しています。小惑星探査機はやぶさが探査した小惑星「イトカワ」には、そのクレーターの一つに「サンマルコ」という名前が付けられています。これは、この洋上基地が宇宙探査に果たした役割を記念するものです。

サン・マルコ・プラットフォーム解体後、イタリアの宇宙開発はイタリア宇宙機関（ASI）が中心となり進められています。ASIはかつて、ロシアと共同で人工衛星打ち上げ機「スタールト1」の共同運用に関する協議を進めるなど、国際協力を含む多様な形で宇宙活動を展開しています。サン・マルコ・プラットフォームは過去の遺産となりましたが、その遺した軌跡は、現代のイタリアの宇宙活動にも影響を与え続けています。

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