サヴァンナ (蒸気船)

サヴァンナ（SS Savannah）

サヴァンナは、1818年にアメリカ合衆国で建造された、補助として蒸気機関と外輪を備えた帆船です。特に1819年の歴史的な大西洋横断航海により、「大西洋を横断した最初の蒸気船」としてその名を広く知られています。しかし、この航海の大部分は帆走に頼っており、蒸気機関のみでの横断を達成した船が後に登場したため、この「最初」の定義については議論が存在します。

建造と特徴

サヴァンナはもともと郵便船としてニューヨークで帆船として建造が始まりました。船台にある頃、船長モーゼス・ロジャースがこの船を購入し、補助的な蒸気機関と外輪を増設することで、世界初の大西洋横断蒸気船として名声を確立することを目指しました。機械設備の設置はモーゼス船長自身が監督し、船体と帆装の作業は従兄弟のスティーブンス・ロジャースが指揮しました。

船体に搭載された蒸気機関は、ニュージャージー州のスピードウェル・アイアンワークス社製で、90馬力の低圧機関でした。シリンダーはニューヨークのアレアー・アイアン・ワークス社が製造した直径1mのものが使用されました。鋳鉄製の外輪は直径が16フィートあり、それぞれに8枚の羽根がついていました。しかし、当時の技術や構造上の制約から、燃料（石炭75トン、材木25コード）の積載スペースは限られていました。

このため、サヴァンナの蒸気機関は主に海が穏やかで帆走速度が4ノット以下に落ちた場合に限定して使用されました。特筆すべきはその設計であり、使用しないときには外輪を折り畳んでデッキに格納することができました。これは棒ではなく鎖で羽根が繋がれていたことによる革新的な機能で、外輪とその保護具の格納は15分足らずで完了しました。サヴァンナは、取り外し可能な外輪を備えた数少ない、あるいは唯一の船として知られています。また、蒸気機関とボイラーのスペースを確保するため、メインマストが通常より船尾寄りに配置されていました。

内装に関しては、2人部屋16室が設けられ、定員は32名でした。女性用の区画は男性用と完全に分離されており、談話室は絨毯やカーテン、鏡で装飾されるなど、当時の郵便船としては豪華で快適な造りでした。

大西洋横断への挑戦

大西洋横断航海に先立ち、サヴァンナはニューヨークから母港であるジョージア州サバンナへの最初の航海を行いました。ニューヨークでは「蒸気の棺桶」と揶揄され、当初乗組員集めに苦労しましたが、モーゼス船長は故郷で人員を確保しました。この最初の航海でも、悪天候のため蒸気機関の使用は限られ、航海の大部分を帆走でこなしました。

サバンナ港に到着後、偶然訪問していたモンロー大統領がサヴァンナに乗船する機会がありました。大統領はこの革新的な船の機械設備に感銘を受け、外洋蒸気航海への期待を表明し、成功すれば連邦議会に購入を検討させる可能性を示唆しました。大統領の後押しは、船主の欧州航海への意欲を一層高めたと考えられます。

しかし、前人未到の航海であったため、乗客や貨物を見つけることは極めて困難でした。結局、この歴史的な旅は乗客や積荷を乗せず、純粋な実験航海として実施されることになりました。

歴史的な航海

1819年5月24日、サヴァンナはリヴァプールを目指し、サバンナ沖から出航しました。航海の途中で遭遇した他の船からは、外輪を格納して帆走している姿や、蒸気機関を使用する際の煙を見て火事と誤解される場面もありました。スクーナー船コントラクトの船長は、後にサヴァンナだと知って「ヤンキーの技術と冒険心による誇らしい瞬間」と称賛を送っています。また、英国軍のカッター船カイトからは、煙を見て火事と疑われ、追跡された挙句、警告砲撃を受けて臨検を受ける一幕もありました。この際、イギリス人将校と航海長スティーブンス・ロジャースの間でユーモラスなやり取りがあったと伝えられています。

サヴァンナは、出航から29日と11時間後の6月20日にリヴァプールに到着しました。この間、蒸気機関が実際に使用されたのは合計で約80時間、全航海時間の約11%に過ぎませんでした。

欧州での受容と旅

リヴァプールに滞在中、サヴァンナはその珍しさから数千人もの見学者を集め、大きな注目を浴びました。中には米英関係がまだ微妙だったことから、ナポレオンの脱出を企んでいるのではないかと疑う者もいました。

リヴァプール出港後、サヴァンナはバルト海へと向かいました。デンマークのヘルシンゲルで検疫を受けた後、バルト海を航行した最初の蒸気船としてスウェーデンのストックホルムに到着しました。ストックホルムでは、スウェーデン＝ノルウェーの王子や各国の要人が視察に訪れ、体験航海も実施されました。スウェーデン政府から購入の提案がありましたが、モーゼス船長はこれを断っています。その後、ロシアのクロンシュタット、サンクトペテルブルクを訪問。ロシアでも同様に手厚い歓迎を受け、皇室関係者を含む多数の著名人が体験航海に参加しました。ロシア政府からの購入提案も拒否されました。

帰路と終焉

欧州各地での関心を集めた後、サヴァンナは合衆国への帰路につきました。帰国航海中は荒天に見舞われることが多く、蒸気機関はほとんど使用されませんでした。約40日間の航海の末、11月30日に母港サバンナに帰還しました。

帰港後、サヴァンナはワシントンD.C.へ向かいましたが、その間に母港サバンナで大火が発生し、船主のウィリアム・スカーブラフとその協力者が財政的に大きな打撃を受けました。これにより、サヴァンナは売却を余儀なくされます。蒸気機関は船体から撤去され、製造元のアレアー・アイアン・ワークス社に引き取られました。シリンダーは同社オーナーによって保管され、後に博物館で展示されました。

機関を撤去されたサヴァンナは、純粋な帆船としてニューヨークとサバンナ間の郵便船として運用されました。しかし、1821年11月5日、ニューヨークのロングアイランド沖で座礁し、大破してその生涯を終えました。

歴史的意義

サヴァンナの航海は、当時の技術的制約や経済的な問題、そして人々の外洋における蒸気駆動への不信感から商業的な成功を収めることはありませんでした。貨物や乗客のスペースを犠牲にする機関・燃料積載量や、外洋航海での蒸気機関の信頼性に対する懸念は、蒸気船が定期的に大西洋を横断するようになるまでには、この後20年以上の時間を要することを示しました。

それでもなお、サヴァンナが世界で初めて大西洋を横断した蒸気船として（たとえ補助的な使用であったとしても）その可能性を証明した功績は大きいと言えます。その挑戦は、来るべき蒸気船時代の幕開けを告げる重要な一歩となったのです。サヴァンナの歴史的な航海を記念して、1944年には記念切手が発行されました。

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