サヴォイア・マルケッティ S.64
サヴォイア・マルケッティ S.64（Savoia-Marchetti S.64）は、1928年にイタリアで誕生した実験用単葉機です。当時の航空界の最前線であった、無着陸での飛行時間および長距離飛行の世界記録を更新することを主な目的として開発されました。
S.64の最大の特徴は、その独創的な機体構造にあります。主翼の後方には、剥き出しの鋼管で組まれた2本のトラスが伸び、これが尾翼を支えるという「ポッド・ブーム」と呼ばれる設計が採用されました。この方式は、同社が製造した飛行艇S.55でも用いられていた構造に類似しています。
エンジンは、機体の重心を考慮して主翼上の支柱によって支えられ、その一基のエンジンが推進式のプロペラを駆動する配置となっていました。パイロットが搭乗するコックピットは、ずんぐりとしたポッド状の胴体内部に完全に覆われており、空気抵抗の軽減が図られています。
本機は、1928年4月3日にパイロットのアレッサンドロ・パッセレーヴァの操縦により、最初の飛行に成功しました。
S.64は、その開発目的通り、数々の記録樹立に挑みました。1928年5月31日、アルトゥーロ・フェラーリンとカルロ・デル・プレーテのコンビは、ラディスポリ近郊のトレ・ファヴィアとアンツィオの間を51往復する長時間の周回飛行に臨みました。
彼らは6月3日に無事着陸するまでに、驚異的な記録を打ち立てます。総飛行距離は7,666 kmに達し、周回飛行距離の世界新記録を樹立しました。また、滞空時間は58時間34分となり、これも当時の世界新記録でした。さらに、この飛行中に5,000 kmの距離を平均139 km/hの速度で飛行した記録も認定され、合計3つの世界記録を同時に更新する快挙となりました。この成功を受けて、この記録飛行はローマからニューヨークへの大西洋横断飛行に向けた重要な予行演習であると位置づけられました。
最初の記録飛行からおよそ1カ月後の7月、フェラーリンとデル・プレーテはS.64で実際に大西洋横断に挑戦します。目指したのはニューヨークではなく、南大西洋を越えてブラジルでした。
7月3日の夜にイタリアのモンテチェッリオを離陸した機体は、夜間にサルデーニャ島上空を通過し、翌朝にはジブラルタルに到達しました。4日にはアフリカ大陸西岸のカサブランカやヴィッラ・シスネロスを経由し、夕刻にはカーボベルデ諸島を通過してブラジルへと針路を取りました。5日の朝、ペルナンブーコ州の無線圏内に入り、ナタール近くのブラジル沿岸に到達。当初はリオデジャネイロを目指して南下を続けたものの、悪天候に進路を阻まれ、ナタールへの引き返しを余儀なくされました。しかし、燃料残量が少なくなりつつある状況に加え、飛行場が丘の陰に位置するためナタールへの着陸も困難となり、最終的には更に北へ約160 km飛行したトウロスの海岸に不時着する事態となりました。
ローマを出発してから8,100 kmを48時間14分で飛行したこの記録は、国際航空連盟（FAI）により、モンテチェッリオからナタールまでの大圏距離7,188 kmの隔地間飛行世界記録として公式に認定されました。ブラジル各地では彼らの到着を祝う準備が進められており、特にリオデジャネイロでは盛大な歓迎が数週間にわたって繰り広げられました。不時着により機体は損傷していましたが、船でリオデジャネイロに移送された後、ブラジル政府に寄贈されることとなりました。
しかし、この祝賀ムードは悲劇によって幕を閉じます。8月11日、フェラーリンとデル・プレーテが別の機体であるS.62のデモンストレーション飛行中に墜落。デル・プレーテはこの事故で負った怪我が原因で、その5日後に帰らぬ人となりました。
1930年には、S.64の改良型として「S.64bis」が登場しました。この機体は、フェラーリンとデル・プレーテが樹立した滞空時間と周回飛行距離の世界記録の更新を目指しました。
同年5月30日から6月2日にかけて、ウンベルト・マッダレーナとファウスト・チェッコーニのパイロットコンビは、周回コースを8,188 km飛行し、滞空時間67時間14分という新たな世界記録を樹立しました。彼らはS.64bisで隔地間飛行記録にも挑戦する準備を進めていましたが、翌1931年3月19日、ピサ沖での飛行中に機体は墜落。マッダレーナ、チェッコーニ、そして整備士のジュゼッペ・ダ・モンテが犠牲となりました。
機体の残骸は広範囲に散乱しており、正確な事故原因を特定することは困難でしたが、調査団はクランクシャフトの破損によりプロペラが飛散し、機体に致命的な損傷を与えた可能性が高いと推定しました。
乗員: 2名
全長: 9.00 m
全幅: 21.50 m
翼面積: 60.0 m²
空虚重量: 2,400 kg
全備重量: 7,000 kg
エンジン: フィアット A.22T (410 kW / 550 hp) × 1基
最高速度: 235 km/h
S.64とその改良型S.64bisは、航空技術の限界に挑み、輝かしい世界記録を樹立した一方で、その挑戦の過程で尊い命が失われるという悲劇も経験しました。しかし、これらの機体が達成した記録は、長距離・長時間飛行技術の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。
機体設計
S.64の最大の特徴は、その独創的な機体構造にあります。主翼の後方には、剥き出しの鋼管で組まれた2本のトラスが伸び、これが尾翼を支えるという「ポッド・ブーム」と呼ばれる設計が採用されました。この方式は、同社が製造した飛行艇S.55でも用いられていた構造に類似しています。
エンジンは、機体の重心を考慮して主翼上の支柱によって支えられ、その一基のエンジンが推進式のプロペラを駆動する配置となっていました。パイロットが搭乗するコックピットは、ずんぐりとしたポッド状の胴体内部に完全に覆われており、空気抵抗の軽減が図られています。
本機は、1928年4月3日にパイロットのアレッサンドロ・パッセレーヴァの操縦により、最初の飛行に成功しました。
記録飛行
周回飛行記録
S.64は、その開発目的通り、数々の記録樹立に挑みました。1928年5月31日、アルトゥーロ・フェラーリンとカルロ・デル・プレーテのコンビは、ラディスポリ近郊のトレ・ファヴィアとアンツィオの間を51往復する長時間の周回飛行に臨みました。
彼らは6月3日に無事着陸するまでに、驚異的な記録を打ち立てます。総飛行距離は7,666 kmに達し、周回飛行距離の世界新記録を樹立しました。また、滞空時間は58時間34分となり、これも当時の世界新記録でした。さらに、この飛行中に5,000 kmの距離を平均139 km/hの速度で飛行した記録も認定され、合計3つの世界記録を同時に更新する快挙となりました。この成功を受けて、この記録飛行はローマからニューヨークへの大西洋横断飛行に向けた重要な予行演習であると位置づけられました。
大西洋横断飛行
最初の記録飛行からおよそ1カ月後の7月、フェラーリンとデル・プレーテはS.64で実際に大西洋横断に挑戦します。目指したのはニューヨークではなく、南大西洋を越えてブラジルでした。
7月3日の夜にイタリアのモンテチェッリオを離陸した機体は、夜間にサルデーニャ島上空を通過し、翌朝にはジブラルタルに到達しました。4日にはアフリカ大陸西岸のカサブランカやヴィッラ・シスネロスを経由し、夕刻にはカーボベルデ諸島を通過してブラジルへと針路を取りました。5日の朝、ペルナンブーコ州の無線圏内に入り、ナタール近くのブラジル沿岸に到達。当初はリオデジャネイロを目指して南下を続けたものの、悪天候に進路を阻まれ、ナタールへの引き返しを余儀なくされました。しかし、燃料残量が少なくなりつつある状況に加え、飛行場が丘の陰に位置するためナタールへの着陸も困難となり、最終的には更に北へ約160 km飛行したトウロスの海岸に不時着する事態となりました。
ローマを出発してから8,100 kmを48時間14分で飛行したこの記録は、国際航空連盟（FAI）により、モンテチェッリオからナタールまでの大圏距離7,188 kmの隔地間飛行世界記録として公式に認定されました。ブラジル各地では彼らの到着を祝う準備が進められており、特にリオデジャネイロでは盛大な歓迎が数週間にわたって繰り広げられました。不時着により機体は損傷していましたが、船でリオデジャネイロに移送された後、ブラジル政府に寄贈されることとなりました。
しかし、この祝賀ムードは悲劇によって幕を閉じます。8月11日、フェラーリンとデル・プレーテが別の機体であるS.62のデモンストレーション飛行中に墜落。デル・プレーテはこの事故で負った怪我が原因で、その5日後に帰らぬ人となりました。
後継機S.64bisと悲劇
1930年には、S.64の改良型として「S.64bis」が登場しました。この機体は、フェラーリンとデル・プレーテが樹立した滞空時間と周回飛行距離の世界記録の更新を目指しました。
同年5月30日から6月2日にかけて、ウンベルト・マッダレーナとファウスト・チェッコーニのパイロットコンビは、周回コースを8,188 km飛行し、滞空時間67時間14分という新たな世界記録を樹立しました。彼らはS.64bisで隔地間飛行記録にも挑戦する準備を進めていましたが、翌1931年3月19日、ピサ沖での飛行中に機体は墜落。マッダレーナ、チェッコーニ、そして整備士のジュゼッペ・ダ・モンテが犠牲となりました。
機体の残骸は広範囲に散乱しており、正確な事故原因を特定することは困難でしたが、調査団はクランクシャフトの破損によりプロペラが飛散し、機体に致命的な損傷を与えた可能性が高いと推定しました。
要目 (S.64)
乗員: 2名
全長: 9.00 m
全幅: 21.50 m
翼面積: 60.0 m²
空虚重量: 2,400 kg
全備重量: 7,000 kg
エンジン: フィアット A.22T (410 kW / 550 hp) × 1基
最高速度: 235 km/h
S.64とその改良型S.64bisは、航空技術の限界に挑み、輝かしい世界記録を樹立した一方で、その挑戦の過程で尊い命が失われるという悲劇も経験しました。しかし、これらの機体が達成した記録は、長距離・長時間飛行技術の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。
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