ザクスピード・861

ザクスピード・861：資金難と闘った挑戦者の物語

1986年のF1世界選手権。数多の強豪チームがしのぎを削る中、ひときわ異彩を放ったチームがあった。それが、ドイツのザクスピードチームである。彼らが投入したザクスピード・861は、資金不足という厳しい状況下で開発されたマシンであり、その開発物語とレース戦績は、F1の歴史において特筆すべきものと言えるだろう。

コンセプト：軽量化と簡素化

ザクスピード・861は、前年モデルである841をベースに開発された。設計思想の中心は軽量化と設計の簡素化。資金力に乏しいザクスピードにとって、限られたリソースを最大限に有効活用することが不可欠であった。エンジンとシャシーの両方を自社開発するという、フェラーリやルノーと同様の戦略を取った点も特筆すべきだろう。これは当時のF1において非常に珍しい取り組みであり、ザクスピードの開発力の高さを示している。

シャシーとサスペンション：軽量化への執念

シャシーは、カーボンファイバーとケブラーを組み合わせたハニカム構造のモノコックを採用。燃料タンクは規定容量である195リットルにまで小型化され、リアウィングも空気抵抗を低減するため小型化された。しかし、軽量化への努力にも関わらず、車重は575kgと、当時の基準から見るとやや重い部類であった。

ボディは赤と白のウエストカラーで、スポンサーロゴが鮮やかに描かれていた。サスペンションはダブルウィッシュボーン式で、プルロッドによってスプリングとダンパーが作動する仕組み。ブレーキは当初鋳鉄製だったが、モナコグランプリからカーボンブレーキの実験を開始し、ドイツグランプリから本格採用へと移行した。タイヤはグッドイヤー製を使用。841に比べ大幅な改良が施されたものの、設計思想は時代遅れであったと後に評価されることとなる。

エンジンとトランスミッション：独自の技術と妥協

ザクスピードは自社開発の1.5リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載。ハートやBMWエンジンと同じレイアウトであり、スペースフレームのクレードルに取り付けられた。当時、V6エンジンが主流を占める中、直列4気筒ターボという選択は、資金力と開発リソースの制約を反映したものであったと言える。

燃料噴射システムには、当初は機械式システムを採用していたが、シーズン中盤からはボッシュ製の低圧電子式燃料噴射システムに変更。これは元々アルファロメオの直列4気筒ターボエンジン用のものであったが、スロットルレスポンスの向上、ドライバビリティの改善、そして燃料消費量の低減に貢献した。レースでは3.6バールの過給圧で850bhp、予選では4.5バールまで過給圧を上げ、約1000bhpの出力を達成した。これは、当時のトップチームのエンジンと比較するとやや劣るものの、決して見劣りするものではなかった。トランスミッションは前年モデルから改良が加えられたヒューランド製を使用。

レース戦績：完走と上位入賞を目指して

1986年シーズンは、ジョナサン・パーマーとヒューブ・ロテンガッターの2台体制で参戦。ロテンガッターは、自らの資金を持ち込んでチームに貢献した。シーズンを通して、完走回数は10回。最高位はパーマーとロテンガッターがそれぞれ記録した8位（デトロイトとオーストリア）。決して目覚ましい結果とは言えないものの、資金難の中、完走を積み重ねたことは、チームの努力と執念の表れである。861は1987年シーズン開幕戦にも使用された。

結論：挑戦者の矜持

ザクスピード・861は、資金不足というハンデを背負いながらも、独自の技術と開発力でF1世界選手権に挑んだ挑戦者の証。完走を重ねた実績、そして上位入賞に迫る走りから、その力強さと執念が感じられる。F1の歴史において、資金力の豊かさだけが成功の鍵ではないことを示す、貴重な一例と言えるだろう。

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