ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ

概要

『ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ』は、アメリカを代表するブルース歌手・ハーモニカ奏者のハウリン・ウルフが、1970年にロンドンで録音し、翌1971年に発表したスタジオ・アルバムである。この作品最大の特色は、当時のイギリスを代表するロック・ミュージシャンたちが多数参加している点にあり、特にエリック・クラプトン、スティーヴ・ウィンウッド、そしてローリング・ストーンズのリズム隊であるビル・ワイマンとチャーリー・ワッツが主要ゲストとして名を連ねている。ブルース界の巨匠と、彼に影響を受けたロック界のスターたちが一堂に会した企画として、リリース当時大きな話題を呼んだ。

制作の背景とプロセス

この異色のプロジェクトは、チェス・レコードのスタッフ・プロデューサーであったノーマン・デイロンの発案から始まった。1968年夏、彼はニューヨークのフィルモア・オーディトリアムの楽屋で、当時クリームのメンバーだったエリック・クラプトンに対し、ウルフとの共演アルバム制作のアイデアを提案したという。この構想が具体化したのは、1970年4月末にハウリン・ウルフがイギリスへ渡った際のこと。ロンドンでのセッションが実現する運びとなった。

当初のセッション初日には、ベースにクラウス・フォアマン、ドラムスにリンゴ・スターという豪華な顔ぶれがリズム・セクションを務めた。しかし、最終的にオリジナル盤にこの時の録音から採用されたのは「アイ・エイント・スーパースティシャス」の1曲のみで、以降のセッションではローリング・ストーンズのビル・ワイマン（ベース）とチャーリー・ワッツ（ドラムス）が中心となってリズムを支えることになった。長年ウルフの音楽を支えてきたギタリスト、ヒューバート・サムリンもこのセッションに参加している。チェス・レコード側はサムリンのロンドンへの渡航費を負担することに難色を示したが、エリック・クラプトンの強い要望によって彼の参加が実現したというエピソードも、このセッションの特別性を物語っている。

録音は主にロンドンで行われたが、一部のパートは後からアメリカでオーバーダビングされている。ホーン・セクションは、ロンドン・セッションでハーモニカを演奏したジェフリー・カープ率いるバンド「43rd Street Snipers」のメンバーによって追加されたほか、セッションには参加していないフィル・アップチャーチ（ベース）やラファイエット・リーク（ピアノ）といったプレイヤーもクレジットされている。フィーチャリング・ゲストとして紹介されているスティーヴ・ウィンウッドも、実際にはロンドンでの主要セッションには加わっておらず、トラフィックのアメリカ・ツアー中に合間を縫って、ニューヨークでピアノとオルガンのパートをオーバーダビングで録音したものである。

反響と評価

商業的には、本作はアメリカにおいて一定の成果を上げた。ビルボードの主要アルバム・チャートであるBillboard 200では、ハウリン・ウルフにとってキャリアで唯一のチャートイン（1971年9月11日付で最高79位）を果たした。また、ビルボードのR&Bアルバム・チャートでも、同年9月18日付で28位を記録している。

しかし、批評家からの評価は分かれた。音楽評論家のCub Kodaは、オールミュージックでのレビューにおいて5点満点中2.5点と比較的厳しい評価を下し、「ウルフとイギリスの参加ミュージシャンたちとの間には、明白どころか、率直に言って悲しくなるほど、エネルギーのレベルに差がある」と指摘。さらに、「ウルフがバンドに、ウィリー・ディクソンの名曲『リトル・レッド・ルースター』の基本的な弾き方を教えているリハーサル音源の断片からも、このロック・スターとの組み合わせという企画そのものが的外れだったことがうかがえる」と批判的な見解を述べている。

一方で、アメリカの著名な評論家ロバート・クリストガウは、本作にAマイナスという比較的肯定的な評価を与えている。彼は「ウルフの歌声は、いつもよりいくぶん軽く聞こえる。骨を粉砕するほどの勢いではなく。彼は白人の若者たちを怖がらせたくなかったのかもしれない」と、やや皮肉を交えながらも、アルバムの音楽性に対して一定の評価を示した。

その後の展開（リイシュー）

本作は後年、何度か再発売されている。特に注目されるのは2002年のリマスターCDで、これは2枚組のデラックス・エディションとしてリリースされた。ディスク1には、オリジナル盤の収録曲に加えて、マディ・ウォーターズとのスプリット盤『London Revisited』（1974年発表）に初めて収録されたボーナス・トラック3曲が追加された。さらにディスク2には、合計12トラックに及ぶ別テイクや別ミックス音源が収録され、制作過程における様々な試行錯誤の側面を知ることができる内容となっている。

2013年に日本で再発売されたCD（規格品番：UICY-75961）は、オリジナルの13曲に、2002年のデラックス・エディション盤のディスク1に収録されていたボーナス・トラック3曲を加えた全16曲構成となっている。

参加ミュージシャン（オリジナル盤）

ハウリン・ウルフ - ボーカル、ハーモニカ（#4, #8）、アコースティック・ギター（#9）
エリック・クラプトン - リードギター
ヒューバート・サムリン - リズムギター
スティーヴ・ウィンウッド - ピアノ、オルガン
ビル・ワイマン - ベース、カウベル、シェイカー
チャーリー・ワッツ - ドラムス
イアン・スチュワート - ピアノ（#1, #7, #11, #13）
ジェフリー・カープ - ハーモニカ

アディショナル・ミュージシャン

ラファイエット・リーク - ピアノ（#3, #4, #9, #10）
ジョン・サイモン - ピアノ（#8）
フィル・アップチャーチ - ベース（#1）
クラウス・フォアマン - ベース（#2）
リッチー（リンゴ・スター） - ドラムス（#2）
デニス・ランシング、ジョー・ミラー、ジョーダン・サンドク - ホーン・セクション（#2, #7）

収録曲（オリジナル盤）

Side 1

1. ロッキン・ダディ
2. アイ・エイント・スーパースティシャス
3. シッティン・オン・トップ・オブ・ザ・ワールド
4. ウォリード・アバウト・マイ・ベイビー
5. ホワット・ア・ウーマン!
6. プア・ボーイ

Side 2

1. ビルト・フォー・コンフォート
2. フーズ・ビーン・トーキング
3. ザ・レッド・ルースター（誤った出だし&ダイアログ）
4. ザ・レッド・ルースター
5. ドゥ・ザ・ドゥ
6. ハイウェイ49
7. ワン・ダン・ドゥードゥル

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