ザールバーン

概要

ザールバーン（ドイツ語: Saarbahn）は、ドイツとフランスを結ぶ国際的な路面電車システムであり、特にトラムトレイン方式を採用していることが特徴です。ドイツの主要都市であるザールブリュッケンを拠点に、フランス領内のサルグミーヌをはじめとする周辺地域を結んでいます。この公共交通網は、ザールバーン・ネッツ有限会社（Saarbahn Netz GmbH）が施設や車両を保有し、列車運行業務はザールバーン有限会社（Saarbahn GmbH）が担っています（いずれも2022年時点）。

歴史

ザールブリュッケンの都市交通の歴史は、かつて存在したザールブリュッケン市電に遡ります。蒸気トラム路線を起源とするこの路面電車は、二度の世界大戦を乗り越え、多くの市民の足として機能していました。しかし、第二次世界大戦後の急速なモータリゼーションの進展は、道路上の交通量を著しく増加させ、路面電車の円滑な運行に支障をきたすようになりました。その結果、戦後導入されたトロリーバス（ザールブリュッケン・トロリーバス）と同様に、市電は段階的に廃止されることとなり、1965年までに全ての区間が姿を消しました。

市電廃止後、ザールブリュッケンの主要な公共交通機関は路線バスが担うことになりました。当初は自家用車の普及に伴い利用客が減少傾向にありましたが、1980年代に入ると、運賃体系の見直しや運行系統の再編、バリアフリー対応のノンステップバス導入といった積極的な施策が功を奏し、利用客数は大幅に回復しました。しかし、その増加はバスの輸送能力を超え始め、また、市内中心部の道路が歩行者専用空間へと転換されたこともあり、新たな公共交通システムの導入が喫緊の課題となりました。そこで浮上したのが、既存のドイツ鉄道やフランス国鉄の線路を活用し、市街地と近隣地域を直結するトラムトレインの構想でした。

この構想に基づき、1992年にプロジェクトが正式に始動しました。フランスのサルグミーヌを含む広範な地域を結ぶ路線計画が策定され、1995年6月からはザールブリュッケン市街地における路面電車専用の併用軌道の建設が始まりました。そして、構想から5年後の1997年10月24日、サルグミーヌからザールブリュッケンを経由し、ルードヴィヒシュトラーセ（Ludwigstraße）までの全長19キロメートルの最初の区間が営業運転を開始しました。開業初年度には年間4,090万人という驚くべき利用客数を記録し、その成功を印象付けました。

開業以降、ザールバーンはドイツ側へと順次延伸を続けました。延伸工事には、新たな橋梁の建設やドイツ鉄道線の改修・電化といった大規模なインフラ整備が伴いました。そして、2014年10月5日にレーバッハ方面への延伸区間が開通したことにより、2022年現在におけるザールバーンの全線が開業しました。

運用

2022年現在、ザールバーンはS1号線として運行されています。この路線は、フランスのサルグミーヌを起点とし、ザールブリュッケンを経由してドイツのレーバッハに至ります。路線のうち、レーマーカクテル（Römerkastell）からシドラーハイム（Siedlerheim）にかけての区間は、道路上に設けられた併用軌道となっていますが、それ以外の区間は鉄道線路を利用した専用軌道として運行されています。

車両

現有車両

ザールバーンで現在運用されているのは、ボンバルディア・トランスポーテーション（現在はアルストムの一部）が開発した「フレキシティ・リンク」車両です。この車両は、路面電車と普通鉄道の両方の規格に対応するトラムトレイン用として、世界で初めて低床構造を採用した画期的なモデルです。また、架線電圧についても、路面電車の直流と普通鉄道の交流の両方に対応できる複電圧仕様となっています。開業当初に導入された15編成（車両番号1001〜1015）に加え、2000年には増備車として13編成（車両番号1016〜1028）が投入され、2022年時点では合計28編成が在籍しています。

導入予定の車両

開業から20年以上が経過し、現有のフレキシティ・リンクの置き換え時期が近づいているため、ザールバーンはドイツやオーストリアの鉄道事業者と共同で新型車両の開発・発注プロジェクトである「VDVトラムトレイン（VDV Tram-Train）」に参加しています。このプロジェクトの一環として、スイスの車両メーカーであるシュタッドラー・レールが製造する「シティリンク」が導入される計画です。2024年以降、2027年までの間にフレキシティ・リンクと同数の28編成が順次導入される予定です。

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