シェイクスピアズ・グローブ

シェイクスピアズ・グローブ：エリザベス時代の劇場の再現

ロンドンのサザーク地区、テムズ川南岸に位置するシェイクスピアズ・グローブは、単なる劇場ではなく、博物館や屋内劇場なども併設した複合施設です。その最大の特徴は、ウィリアム・シェイクスピアが活躍した時代のグローブ座を、綿密な歴史的考証に基づいて再現している点にあります。

初代グローブ座は1599年に建設されましたが、1613年の火災で焼失。1614年に再建されましたが、1644年には取り壊されました。現在のシェイクスピアズ・グローブは、これらの歴史的記録や、わずかに残された証拠を基に、可能な限り当時の姿を再現しようと試みられたものです。

再建への道のり：サム・ワナメイカーの情熱

この壮大なプロジェクトを推進したのは、俳優であり演出家でもあったサム・ワナメイカーです。彼は1970年代に、シェイクスピア・グローブ・トラストと国際シェイクスピア・グローブ・センターを設立し、グローブ座の復元計画を着々と進めました。

16世紀の建築様式は現代の安全基準を満たすことが難しく、忠実な再現は不可能との批判もありましたが、ワナメイカーは20年以上にわたる努力の末、ついに1997年にシェイクスピアズ・グローブを完成させました。彼は、1614年再建後の姿ではなく、初代グローブ座（1599年）の再現を目指しました。そのため、当時の建築様式や材料に関する徹底的な調査が行われ、類似の建造物や建築契約書なども参考にされました。

劇場の構造と特徴

シェイクスピアズ・グローブは、初代グローブ座があった場所から約230メートル離れた場所に建てられました。これは、テムズ川の河岸線の変化や、既存建造物の存在など、様々な制約を考慮した結果です。

劇場は、3階層の傾斜した客席に囲まれた、大きな四角い土間に突き出した張り出し舞台を持つ、円形劇場です。屋根は舞台と客席の一部のみを覆い、シェイクスピア時代の雰囲気を再現しています。座席は素朴なベンチで、クッションは有料で貸し出されます。また、この劇場はロンドン大火以来、初めてかつ唯一許可された茅葺屋根の建物でもあります。防火対策として、現代的な防火剤処理とスプリンクラーが設置されています。

客席数は約857席で、さらに立ち見席も約700名収容可能です。これはシェイクスピア時代の観客数の約半分ですが、それでも当時の雰囲気を味わえるよう設計されています。当初18年間は、スポットライトを使わず、日中またはフラッドライトを使った夕方に公演が行われ、マイクやスピーカーなども使用されていませんでした。音楽はすべて生演奏で、当時の楽器が頻繁に使用されました。

併設施設：多様な文化体験

シェイクスピアズ・グローブには、屋外劇場以外にも様々な施設があります。

サム・ワナメイカー劇場: ジェームズ一世時代の屋内劇場を模した小さな劇場で、冬期公演に使用されています。ロウソクの灯りで照らされた、独特の雰囲気を持つ空間です。
サックラー・スタジオ: 教育やリハーサルに使用されるスタジオで、博物館機能も併設しています。シェイクスピアの生涯や作品に関する展示、劇場のツアーなども行われています。

教育プログラム：Read Not Dead

シェイクスピアズ・グローブでは、1995年から「Read Not Dead」というリーディング公演シリーズを開催しています。これは、シェイクスピアの同時代人や近隣の作家による戯曲を、台本を読み上げる形式で上演するもので、シェイクスピアズ・グローブだけでなく、全国各地の劇場でも上演されています。

グローブ・オン・スクリーン

シェイクスピアズ・グローブでの公演は、しばしば映画館で上映されたり、DVDでリリースされたりします。2015年には、ビデオ・オン・デマンドサービス「グローブ・プレイヤー」も開始され、より多くの人にシェイクスピア作品へのアクセスを提供しています。

シェイクスピアズ・グローブは、歴史的考証に基づいた緻密な再現と、質の高い舞台芸術、そして多様な文化体験を提供する、魅力的な複合施設です。単なる劇場を超えた、シェイクスピアの世界を体感できる場所と言えるでしょう。

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